「死刑!」の大合唱が聴こえない

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に入所していた19人が殺害され、職員3人を含む27人が重軽傷を負った事件は、昨日、発生から3年を迎えた。殺人罪などに問われた植松聖被告(29)に対しては、当初から死刑判決を望む声が社会に蔓延していた。

 ひどい事件にちがいないが、植松被告に対する死刑判決とその後の死刑執行が一体社会の何を解決するのかということを考えると、植松被告に向く社会の最大の関心が「死刑執行」でよいのか疑問を抱く。

 

 ところが、最近、京アニで起こった放火殺人事件の報道では、京アニのアニメに救われた人々の感謝の声が多く取り上げられているが、彼らから青葉真司被疑者(41)に対する「死刑!」の大合唱が出て来ない。報道でカットしているだけなのか。

 

 アニメ映画をほとんど観なくなっていたわたしも、『聲の形』(2016年)を観て、なかなかよくできている作品だったなあと思い出す。そういう思いを抱きながら、この作品を作った人たちの命を一瞬にして奪った人の方に顔(思考)を向いたとき、「お前は死ね!」「死刑にされて死ね!」という言葉が出ない。どうしても、出にくい。なぜなのか。京アニのアニメは、ダメな人間、弱い人間を否定しない。非道極まりない青葉被疑者はどう位置づければいいのか。亡くなった人たちが自分を殺した人間に聲を発することができるとしたら、「お前は死ね!」「死刑にされて死ね!」という大合唱になるのだろうか。わたしにはわからない。

郷原弁護士のブログがおもしろい

郷原信郎弁護士のブログ(7月25日)で、吉本興業問題を取り上げている。

ご指摘、いちいちごもっとも。どうぞご一読ください。

そして、記事の最後に以下のような指摘がある。

「それにしても不思議なのは、吉本HDという会社には、社外取締役、社外監査役に、東京の大手法律事務所所属弁護士なども含む4名もの弁護士がいるのに、なぜ、芸人・タレントとの間で契約書すら交わされていない「無法状態」が放置されてきたのかということだ。吉本HDの社外役員というのは、それ自体が一つのステータスということなのであろうか。

コーポレートガバナンスの強化に関して、社外役員の存在が重視され、弁護士の社外役員も相当な数に上っている。しかし、本当に、それが会社の経営を法的に健全なものにすることに役立っているのか、改めて考えてみる必要がありそうだ。」

外部の人間は一体何をしているのか。いる意味があるのか。

あのあまりにもひどい話し合い、下手過ぎる記者会見を見るだけでも、吉本興業の顧問弁護士は一体、会長、社長にどんな助言をしているのか大いに疑問だ。あれで、顧問弁護士が出て来て補充説明したら、ますます炎上してしまうのだろう。

選ばれる側は選ぶ側のレベルを越えられないということか。

吉本興業にがっかり

7/20(土) 16:34配信デイリースポーツ

 

「反社会的勢力の宴席での闇営業と金銭受領が発覚し、吉本興業から契約を解消された雨上がり決死隊宮迫博之(49)と、吉本から謹慎処分を受けているロンドンブーツ1号2号田村亮(47)が20日、都内で謝罪会見を行った。亮は契約解除を希望した。

 2人は経緯を説明。6月8日以降、吉本に反社会的勢力から金銭受領があったことを伝え、謝罪会見を希望したが、吉本側に阻止されたとした。岡本昭彦社長から謝罪会見について「やってもええけど、ほんなら全員クビにするからな。おれにはお前ら全員クビにする力がある」と言われたことを明かした。

 さらに2日前に吉本から突然、引退会見か契約解除を選ぶよう通告され、会社主導の会見を求められたとした。亮はネット視聴なども可能にしてほしいと希望したが、吉本から「いやいや、そんなんこっちで決める」と言われたとした。また「在京在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫やから」とも言われたとした。

 亮は「なにが大丈夫なんか分からん」と不信感がつのったと説明。「好きだった会社がこんな風に変わるんだ」と感想を語った。

 2人は会社を辞め、自分達で会見を開く道を選んだと説明した。」

 

2人の決断は相当なものだ。これまでのタレント財産すべてを投げうっているように見える。

他方、個人の力による人生のリセットを邪魔する思想は、ジャニーズ事務所吉本興業はよく似ている。強者の驕りそのものだ。

これらの会社にこういう思想があることを、どのマスコミもずっと気づかなかったとは思えない。気づいていながら、どこも問題にしなかった。問題にしていれば、吉本興業は2人に記者会見の場を与えていただろう。能年玲奈がテレビからも映像からも消えているのも、同質の問題が背後にあるかららしい。マスコミの、見て見ぬふりが、タレントの悲劇を深刻にしている。

 

辺野古で官製談合?!

毎日新聞10/28(土) 7:45配信
防衛省沖縄防衛局が発注した沖縄県名護市辺野古沖の海上警備業務に過大積算があると
会計検査院が指摘したことが、関係者への取材で分かった。2015、16年度の契約4件の予定
価格は計約83億円で、すべて東京都渋谷区の警備会社が受注。米軍普天間飛行場(同県宜野
湾市)の移設反対派に対する警備の「特殊性」を口実として、人件費などが過大に見積もられて
いた。≫

防衛関連予算は一般市民の生活から遠いので、過大請求かどうかがわかりにくいことが多い。
が、今回の場合、海上警備業務ということで、積算しやすい。

「すべて東京都渋谷区の警備会社」。1社?
警備会社はほとんどが警察官僚の天下り企業。この警備会社もそうではないか。

辺野古沖では、移設反対の市民らがカヌーなどに乗って抗議活動を続けており、同局は埋め
立て工事を安全に進めるため海上警備を発注している。受注社は子会社に業務を一部委託しな
がら現在も海上警備を行っている。≫

「受注社は子会社に業務を一部委託しながら現在も海上警備を行っている」とあるが、受注会社
は一体従業員がどれだけいて、自ら直接行っている業務はどれくらいの割合なのか。どうしてこう
いう重要な事実を記事に書かないのか。

≪各契約の一般競争入札は15年7月を皮切りに、16年3月と10月、17年1月に実施。受注社
は1件目で予定価格24億790万円に対し23億9481万円で落札するなど、落札率は約98〜
約99%で推移し、100%に近い
。≫

予定価格を知らなければ、かつ、入札業者間で談合していないと、こんな高い金額で落札する
ことはできない。

≪同局は当初の入札の前、3社に見積書を依頼したが、2社が辞退し、受注社だけが提出した。
国土交通省が定める沖縄県内の警備員の日割基礎単価(15年度)は7500〜1万100円だが、
毎日新聞が入手した受注社の見積書では「海上警備要員」の日割単価が3万9000〜9万円
記載されていた。≫

「3社に見積書を依頼したが、2社が辞退」?
談合の場合、落札予定業者以外は見積書を作らない。手間暇かける分だけ損だからだ。
「見積書を出してよ」と言われれば、出せない。当然、辞退することになる。
そして、残る1社が高すぎる入札価額でぼろ儲け。

≪予定価格は通常、警備員の賃金単価に人数や時間を乗じるなどして積算される。だが、関係者
によると、15年度の契約を中心に調べたところ、同局の積算単価は非常に高額な設定がされてい
た。検査院が独自に標準的な単価で積算し直すと、予定価格より数億円低くできたという。≫

「(防衛省沖縄防衛)局の積算単価は非常に高額な設定がされていた」!
官製談合だ。
落札業者が儲けるだけでなく、防衛省の官僚にも相応の“お礼”があったにちがいない。

これが地方自治体の問題=無駄遣いなら、地方自治法に基づく住民監査請求、住民訴訟で、落札
業者に対する損害賠償請求ができ、官製談合なら関係した官僚は落札業者と共同不法行為をした
ことになるから関係役人に対する損害賠償請求もできるのだが、国の問題=無駄遣いなので、同じ
手が使えない。

国は損害を被っているのだから、不正に関わった者に対して損害賠償請求すべきだ。

防衛省は「検査の過程のため現時点で答えられない」としている。≫

現時点で答えないのはいいが、損害賠償請求の準備はしてほしい。

犯罪者の家族

昨日(22日)午後2時からフジテレビで放送された「ザ・ノンフィクション」(関東ローカル)
の「人殺しの息子と呼ばれて…後編」がすごかった。

「人殺し」は北九州監禁殺人事件のこと。インタビューに応じたのは、犯人を両親とする男
性(24歳)。匿名で顔を隠していたが、音声を変えていないので、男性の心の動きがよく
わかる。取材班はよくここまで漕ぎ着けたと思う。

妻が前編(10月15日放送)を録画してくれていたので、後編の放送を見る前に前編から
みた。前編は両親が逮捕されるまで、後編はその後の男性(逮捕時、8歳)の人生がどう
なったか。

前編。8歳になるまでの間、男性は自宅で起こっていたことを見ていた。死体をばらばらに
切り刻み、ミキサーにかけて、どろどろにしていた。その臭いの酷かったこと。後で気づい
たのは、ペットボトルにどろどろの液体を入れて、遠方に捨てに行く。自身も、両親に電極
を通される苦痛を幾度も与えられた。戸籍もなく、幼稚園、小学校も通わせてもらえず、家
の中に閉じこもらされていた生活。

後編。8歳で両親が逮捕されたことで、男性は救われたか。実は救われていなかった。「人
殺しの息子」というレッテルがついてまわり、散々な人生が続く。よその子どもは両親がい
て、家があって、お金があるのが当たり前。男性にはどれもない。それが8歳からの人生。
とてもふつうの(というものがあるとすれば)信頼関係を他人と持つことができない。他人を
好きになるという感覚もわからない。
両親は、逮捕され刑事裁判を受ける身分だが、屋根がある場所に毎日いられるし、お金に
も困らないし、外部の人に直接、嫌がらせをされることもない、平和な生活を送っている。
父親は死刑判決、母親は無期懲役判決が確定しているが、男性が外で暮らす苦しみを知
らない。
母親は、父親から離れていることで、自分の思いを息子(男性)宛ての手紙に書いてくるが、
男性にとっては母親は父親の言いなりになって自分を虐待し続けていた加害者であり、そ
の体験と手紙の優しい言葉が重ならない。
父親に面会に行けば、「署名活動をしてくれ」と、なおも死刑を免れることしか考えていない。
男性は、取材者に「父親と母親、自分ではどっちに似ていると思うか」と質問され、少し考え
てから、「父親だと思う」と言ったあとに続けて、「だから、いつか自分も父親と同じようなこと
をしてしまうのではないかと考えると、恐い」と言い切った。
そういう男性が今は結婚して、女性と2人で生活している。「お互いに似ている境遇なので」
という。「では、子どもは?」と聞かれると、「つくらない」ときっぱり言う。ここでまた、「いつか
自分も父親と同じようなことをしてしまうかもしれないので」という。父親の血は自分で断ち
切らなければと思っているのかもしれない。
犯罪者の家族も犯罪被害者だということを痛感させられる。

日曜日の午後のドキュメンタリー番組。前編の6.3%(ビデオリサーチ調べ)の視聴率もな
かなかだが、昨日の後編の均視聴率10.0%(同)は、前編をみた人からの広がりだろう。
こういう番組をみて、犯罪者の家族のことを考えてくれる人が少しでも増えてくれるといいと
思う。

報道の自由について

先週、10月5日、滋賀県大津市で開催された日弁連人権擁護大会シンポジウム第2分科会
「情報はだれのもの?」では、エドワード・スノーデンの対談があるということで、たくさんの弁
護士、記者、市民が900人くらい集まりました。
わたしはこの企画準備に関わっていて、この日も、「報道の自由について」と題して簡単な報
告をしました。以下はそのときの報告内容です。


ノーム・チョムスキーアメリカの言語学者で、詳細な事実を鋭く分析し、アメリカ政府の政策
を厳しく批判し続けている人として世界的に有名な人ですが、その著書『メディア・コントロー
ル 正義なき民主主義と国際社会』(
集英社新書)の、冒頭、「メディア・コントロール」の章は、
「メディアの役割」
で始まります。

そこで、チョムスキーは、民主主義社会には2つの概念があると説明しています。

1つは、一般の人々が自分達の問題を自分達で考え、その決定にそれなりの影響を及ぼす
ことができる手段を持っていて、情報へのアクセスが開かれている環境にある社会

もう1つは、一般の人々を社会の問題の意思決定に関わらせてはならず、情報へのアクセス
は一部の人間の間だけで厳重に管理しておかなければならない社会
です。

後者が民主主義社会だという説明に、疑問を感じる人が多いと思います。
しかし、チョムスキーは、これも民主主義社会の1の概念だと言います。

私たちが暮らしている民主主義社会はどちらなのでしょうか。チョムスキーは、後者だと言いま
す。

そこでいう民主主義社会は、ごく少数の人間が、現実とは異なる「必要な幻想」を作り出して、
人の感情に訴える「過度の単純化をした情報を提供して、大半の人間の思考をコントロール
する社会です。組織的宣伝によって、人々が望んでいないことについても、同意を取り付ける
ことができるのです。
ワイマール憲法下でヒトラー政権を生んだドイツも、マッカーシズムが吹き荒れたアメリカも
民主主義社会でした。
チョムスキーは、そのときだけではなく、いまのアメリカも同じだと言います。
そして、それを支えているのがメディアだ、というのです。

日本の政治状況はどうでしょうか。
聞こえのいい言葉で「幻想」が作り出され、人の感情に訴える「過度の単純化」が行われて
いる
と思ったことはないでしょうか。

分科会のタイトル「情報はだれのもの?」は、自分の情報が自分のものでなくなっている、公的
情報が主権者である国民のものでなくなっていることに対する問題提起です。

この事態を逆転させる必要があります。
その方法は、情報公開制度と公文書管理制度です。
しかし、市民ひとりひとりがこれらの制度を意欲的に活用したとしても、公表できる分野や課題、
継続的取り組みは高が知れています。
様々な重要課題について私たちが問題状況を継続的に的確に知るには、報道の自由の強化
が必要不可欠です。

報道の自由の強化の具体的内容は、調査報道の充実です。
日々の30行、40行の発表記事では背景や本質を理解し考えることはできません。読者がじっ
くり読んで考え込むような丁寧な記事
が必要なのです。

基調報告書では調査報道の実例を紹介しています。
国内では、リクルート事件北海道警察捜査費裏金追及、イラク派遣、陸上自衛隊「別班」、加
計学園問題、海外では、スノーデン氏の内部告発パナマ文書です。
取材過程を詳しく書きました。調査報道の取材現場の大変さ、難しさを実感してもらうためです。

調査報道記事を書くのはたいへんです。
北海道警察捜査費裏金追及では、1年半に及ぶ長期間の報道後に起こった、道警OBによる凄
まじい反撃についても説明しています。詳しくは、当時、担当デスクだった高田昌幸さんが書い
『真実 新聞が警察に跪いた日』(角川文庫)を読んでください。

イラク派遣、「別班」報道は、防衛省の内部情報に基づく記事です。
どちらも政府としては国民に知られたくない情報だったはずです。しかし、記者たちは国家公務
員法違反にも特定秘密保護法違反にも問われていません。なぜでしょうか。取材と公表の過程
をみると、隙のない万全の準備をしています。

スノーデン氏の内部告発が世界に発信されるまでの過程で様々なトラブルが起こっていました。
それを乗り越えての世界発信はジャーナリストたちのタフさ、連携の重要性を痛感させられます。

パナマ文書報道は、内部告発先であった南ドイツ新聞だけでは到底実現しませんでした。世界
中から約80カ国、100を超えるメディア、400人近い記者が連携して実現しました。本日のパ
ネルディスカッションのゲストの1人、共同通信の澤康臣さんは日本から参加した数少ないメン
バーです。なぜこのようなことができたのか。詳しくは澤さんの著書『グローバル・ジャーナリズ
ム 国際スクープの舞台裏』(岩波新書
を読んでください。

調査報道の成功は記者の誇りです。
諸外国では記者は独立したジャーナリストです。調査報道の成功を“勲章”にして、他社に移っ
ていき、ジャーナリストとして成功して行きます。そこには、調査報道に力を注きたくなる動機付
けがあります。

これに比べて、日本では、新聞記者は1企業に就職したサラリーマンです。定年まで同じ会社で働くことを予定しています。そのような記者にとっては会社内の評価が重要
です。社内社外からの批判で炎上するかもしれない調査報道よりも、全社横並びの発表ジャー
ナリズムの方が、記者にとっても会社にとっても無難です。
ここに質の高い調査報道が生まれにくい素地があります。

それでも、記者の仕事をしている以上、世の人々に「いい記事だ!」と褒めてもらいたい気持ち
はあるはずです。カッコいい調査報道記事を書けば、家族にも自慢できるかもしれません。

基調報告書では、日本でも調査報道が生まれやすくなるための具体的な提案をしています。パ
ネルディスカッションでもこの点の話が出てくるはずです。

ご清聴、ありがとうございました。