マイナンバー法案の、ここが問題!
3月1日に衆議院に法案提出されたマイナンバー法案(共通番号法案)のことで、この法案を審議
している衆議院内閣委員会に数少ない(?)「反対派」の代表の日弁連の立場で参考人として意見
を述べてきた。当日夜のNHKニュースでは少し取り上げてくれていたが、福島原発問題の審議と
並行していたため、新聞ではマイナンバー法案の参考人質疑はほとんど取り上げられていなかった
ようだ。
当日、私が15分間で説明したときのレジュメを紹介する。マイナンバー法案をこのまま成立さ
せ、これに基づいてシステムを作ることが一体だれのためなのか。膨大な国家予算を投入し続ける
ことになるこの仕組みが本当にこの国に必要なのかを考えてほしい。
1 情報ネットワークシステムをつくる基本
だれが何を求めているか
だれの責任と費用で運用するか
国民はどのような立場に置かれるのか
を明確にする必要がある。
特に個人識別情報を含んでいる場合は慎重に
2 だれが何を求めているか
広く国民(納税者)に明確なメリットがないのなら、採用は慎重に
市町村の自治事務(地方自治法2条8項)としてスタートした住基ネットの場合
「全国の市町村の求めに応じて作られた」(2002年、総務大臣発言)
⇒ 日弁連調査では、全く違っていた
・ 町村は消極的
・ 全国市長会は、「国が費用を負担してほしい」と決議(2002年)していた
共通番号制の場合
法定受託事務(地方自治法2条9項)として市町村が運用することになる
わたしたち生活者のための「共通番号」推進協議会(代表:北川正恭・早稲田大学大学院教授)
の幹事に全国市長会長は入っているが、全国町村会長は入っていない
⇒ 行政効率化に重大な疑問
費用対効果は未だに不明
3 日弁連のこだわり
真の行政効率を目指すのであれば、財政的に厳しい自治体こそが率先して参加するはず
全国で実施したリレーシンポでは
・ 会場からは疑問の声が続出
・ 日弁連の弁護士以外のパネリストも、自分の期待を述べているだけで、制度全体の評価と
して賛成しているのではなかったこんな状態で制度を作ってしまっていいのか?
順序が逆だ!
1) 従来の行政事務をどのようにすれば効率化できるかという検討がまず必要
2) そのための手段として何があるか
3) そのひとつとしてどのような番号制が有効に機能するか
住基ネットでも共通番号制でも、3)の「番号制、導入」が真っ先に決まっている
これでは、住基ネットと同様、共通番号制も市町村にとっては国からの押し付けでしかない
押し付け業務で、いい成果を挙げることはできない
実務的な皺寄せ(組織内外へのトラブルの対処)はすべて市町村の担当職員に集中
4 共通番号制の特徴と利便性と問題点
生涯不変の公開された番号(住民票コードは、いつでも自由に変更できる秘密番号)
民間で広く利用することを想定(住民票コードは、民間利用禁止)
本人確認がしやすくなる
それが便利であると同時に問題
共通番号は検索キーになる
⇒ 特定個人情報の名寄せがきわめて容易になる
利用範囲が広がるほど、遊び感覚、金儲け目当てによる名寄せ事件が多発する
加害者と被害者の個人的な問題ということで、無視してよいか
5 税と社会保障の一体改革のため?
これは単なるスローガン
具体的な制度になっていない
「所得の正確な把握」はできない
「世帯所得」は尚更、無理
国税庁は承知の上
税理士会としては賛成、税理士は疑問(反対)
なぜ、こういうことが起こるか
先行実施されている国税電子申請は便利か?
・ 添付資料は持参か郵送!
・ 電子申請に添付できると重複利用が可能(脱税の助長)
・ 「便利に気軽に納税」と、「面倒で慎重に納税」
社会保障を考えるときも、個人単位でないなら「世帯」が重要
「世帯」の明確な定義と実態の把握が必要不可欠
法律で「世帯」の厳密な定義ができるか
だれ(国、都道府県、市町村)がどれだけの費用と時間をかけて調査するか
しかも、日々、変化する実態
厚労省側の社会保障関連事業での活用の実像がまったく見えない
すべての医療機関、すべての介護事業者に適正な管理を期待できるのか
どれだけの費用をかけて、なにができるのか
それは費用対効果について国民の納得できるものになるのか
6 第三者機関/特定個人情報保護委員会の創設
個人データ保護のための第三者機関は、共通番号制とは関係なく、必要!
日弁連は、2002年から訴え続けてきた
独立性の強い第三者機関の創設という方向性は評価できる
民主党案に比べると、一定の権限強化がなされている
・ 個別の苦情案件へのあっせん対応を追加(38条1項1号)
・ 指導・助言の対象が特定個人情報以外の個人情報の取扱いに及ぶことがある(50条)
・ 情報システムの構築及び維持管理に関し、総務大臣その他の関係行政機関の長に対し、必
要な措置を実施するよう求めることができる(54条)
しかし、実際にだれが実行するのか
単なる名誉職や天下りでは実効的機能は期待できない
個別の事件を解決する権限はない
警察(刑事事件の捜査)は、第三者機関の監視の対象外(53条・19条2号)
・ 議院の委員会による審査・調査、訴訟手続などと並んで例外扱い
・ 民主的手続も公開性もないのに、なぜ例外なのか
事実上、国内外で行われる名寄せとその利用(悪用)を防ぐことはできない
7 世界中の課題/いま、なにが必要か
コンピュータによるデータ検索が著しく容易になってしまった社会では、国は、国防上の意義も意
識して、個人データ保護のあり方こそ具体的実践的に考えるべきである