逮捕状の被害者名 〜 逗子市ストーカー殺人事件の発端はだれの責任か?

昨年11月、神奈川県逗子市のストーカー殺人事件では、警察官が
被疑者に対して逮捕状の被疑事実を読み上げたときに、被害者の結
婚後の苗字や転居先の部屋番号まで読み上げたため、被疑者が知っ
てしまい、被害者の所在地を知ってしまったことが、悲劇の発端と
なってしまった。


このとき、マスコミ報道は、警察の失態という論調だった。
しかし、これはおかしい。


刑事訴訟法201条では、「逮捕状により被疑者を逮捕するには、
逮捕状を被疑者に示さなければならない。」と規定している。示す
ということは、見せるということである。逮捕状には、なぜ被疑者
として逮捕するのかがわかるように、被疑事実の要旨が書かれてい
る。警察官が逮捕状を執行するときに、被疑事実を読み上げなくて
も、被疑者が逮捕状を示されれば、読んで知ることができたのだ。


警察官は、被疑者に逮捕状を示さないわけにはいかない。示すこと
と、読み上げることは、被疑事実の内容を被疑者が知るという点で
は同じだ。職務を誠実に執行した警察官が非難される筋合いではな
い。


今年1月、兵庫県警は、ストーカー規制法違反の被疑者について、
裁判所(正確には、裁判官)に逮捕状を請求するときに、被疑事実
に被害者の氏名を書かなかったが、裁判所に認められたそうだ。
無難と言えば、無難だ。


しかし、逗子市ストーカー殺人事件で問題とされるべきだったのは、
警察(官)以上に裁判所(裁判官)ではないだろうか。


逮捕状の法的性質については、裁判官の許可状という考え方と、命
令上という考え方があるが、どちらにしても、裁判官がOKしなけ
れば、警察官は逮捕状で被疑者を逮捕できない。


裁判官がOKを出すときに、被疑事実の記載に注文をつけて、「被
害者名やその住所を被疑者が知らないのであれば、これらを被疑事
実に書かないで、他の方法で特定するのであればOKだ」とすれば
よかったのである。
そうすれば、警察官が逮捕状の被疑事実を全文読み上げても、被害
者の結婚後の苗字も住所も知られないで済んだ。

それを裁判官が全く配慮しなかったから、あのような悲劇が起こっ
たのだ。裁判所(裁判官)こそ非難されるべきではないか。