NHK『クローズアップ現代』は現代をクローズアップしたか?

NHKの『クローズアップ現代』は、地味で、社会の関心がいまいち
のようなテーマであっても、しっかり準備して作り上げている感が
あり、あまりテレビを観ないわたしでも、ときどき観ている。


もちろん、人のやることだから、番組の出来不出来はあって、
ちょっと外しているじゃないかと思うことはある。


昨夜放送された、「密着!新人警察官教育 不祥事多発を防げ」。
「番組になるかどうかわからないんですけど」と言われながら、
1ヵ月ほど前に、NHKの記者の取材を受けた。その後、音沙汰が
なかったので、企画はやっぱりダメだったのかなあ、警察組織の
病理はNHKにも無理なのかなあと思っていたら、何と昨夜の放送に
なった。
なにも言って来なかったのは、きっと???の番組になっている
のだろうと予測した。
予測は当たった。


番組HPの解説。
「警察の不祥事が止まらない。去年の懲戒免職者数は過去最多と
なり、最近では、女性への集団わいせつ行為など、警察官である
前に人としての資質を問われるケースのほか、ベテランによる
捜査書類の改ざんなども相次いでいる。組織的な不祥事が相次いだ
13年前に、「刷新」を掲げて大改革が行われたはずの警察で、
なぜまた不祥事が繰り返されているのか。取材を進めると、若手
警察官のモラル崩壊に加え、組織内での管理が年々強化されて現場
の閉塞感が高まっているという実態が明らかになってきた。危機感
を強めた警察は、採用方法の見直しや「使命感」を回復させる倫理
教育など、これまでにない取り組みに着手している。治安を脅か
しかねない「警察官の質の低下」「組織の弱体化」は食い止められる
のか。警察学校への密着や不祥事を起こした元警察官への取材を
通して、巨大組織が直面する深刻な事態と動き始めた人材育成の
取り組みを伝える。」


番組では、新人警察官の教育と、50代のベテラン警察官の不祥事に
焦点を当てていた。
新人教育では、警察学校の身体的トレーニングの厳しさが、1割前後
の新人警察官がすぐに警察官を辞める原因になっているという説明
だった。


ベテラン警察官の不祥事は、証拠が紛失していることを上司に報告
しないで、別の物を入れ替えたことが発覚して懲戒免職になった元
警察官のインタビューを導入に、書類作成がやたら多くなっている
現状を取り上げていた。


要は、どちらにしても、問題は現場の警察官ということ。


しかし、これは問題の本質を外している。
わたしが取材記者に説明したことは単純だ。
「問題の本質は警察の仕事をノルマにしていることにある。警察庁
国家公安委員会が毎年公表している犯罪統計をみれば一目瞭然だ。
そこでは、検挙件数があがったか、維持できたかをひたすら問題に
している。トップがそのような考え方になっていれば、現場はこれ
に従うしかない。ノルマが果たせない警察官はダメな警察官。それが
無理な職務質問の蔓延による人権侵害を多発させている。
現場の警察官と警察官僚ではみているものが全く違う。現場の警察官
がみているものを警察官僚はみていない。現場の警察官の悩みは
警察官僚にはわからない。そういう警察官僚が現場の警察官を仕切る
のだから、現場の警察官がおかしくなるのは当然だ」


新人教育で多くの新人警察官が辞めて行くのは、それまで全く気づか
なかった警察組織の異常な価値観にある。組織は絶対。警察官の人権は
どこへやら。弁護士は敵。民主主義社会の警察はそれなりに民主的か
と思ったら、全く違う。そういう雰囲気が満ちている。それで、とても
ついて行けないと思い、辞めてゆく人は多いはずだ。


司法試験合格者のための研修を行う司法研修所のように、新人警察官の
教育に弁護士会が深く(浅くではない!)関わるようになれば、かなり
違ってくるだろうが、そんなことは絶対にさせてくれないだろう。


紛失証拠を入れ替えた元警察官にしても、この証拠に関する刑事裁判が
続いていたことが発覚のきっかけで、これさえなければばれなかった。
ばれなければいい。そういう発想が組織全体に根付いているからこそ、
紛失の経過についての徹底調査は行われず、最終的な不祥事をした警察
官だけがトカゲの尻尾切りをされる。


ノルマ問題を意図的に外した『クローズアップ現代』は、日本の警察の
現代をクローズアップしただろうか?