何のための参考人質疑だったのか?

衆議院国家安全保障に関する特別委員会は、11月13日、4人の
参考人を呼んで、秘密保護法に関連する意見を聞いている。

その速記録を読んで呆れた。

参考人は、長谷部恭男・東大教授、田島泰彦・上智大教授、春名幹男・
早大客員教授、永野秀雄・法政大教授。
長谷部教授は、秘密保護法案のもとになった有識者会議の委員のひとり。
田島教授は、わたしと一緒に、『秘密保全法批判』(日本評論社)の
編集をした人。賛成論者、反対論者としてのメリハリはある。
他の2人は何のために登場したのかわからない。

それにしてもだ。
処罰範囲が広く、刑罰が重く、構成要件が曖昧であることからすれば、
刑法学者。刑事訴訟手続の問題があることからすれば、刑事訴訟法学者。
適性評価制度のプライバシー侵害や人事差別の問題があることから
すれば、民法学者、労働法学者。これらを実際の事件で扱うことになる
弁護士。公文書管理法との関連性を詳しく説明できる研究者。このような
人選がまったくなされていない。
法案の内容について専門家の意見を聞く気がないとしか思えない参考人
質問。理解不能だ。

長谷部教授は憲法学者だと思っていたが、説明内容に憲法の専門家らしい
気高さはない。その場の思いつきの雑談の類だ。
長谷部教授は、5点、指摘した。

最初に強調しているのが、「秘密保護法が必要だ」ということだが、
無意味な論だ。世の中では、どのような秘密保護法だったら許容してよい
のかという議論をしているのであって、いるいらないの論争をしている
のではない。ここですでに浮世離れしている。

2番目に指摘している、特定秘密の曖昧性についても、「人はおよそ
全知全能ではございません」という切り返しをしている。特定秘密の
曖昧性がどういう脈略で問題になっているのかがわかっていない。
重い刑罰と連動する場面があるから問題になるのである。罪刑法定主義
とは関係だ。取扱者は、特定秘密を認識しているとしても、それ以外の
人にはわからない。それでも、裁判官は、別表が公表されていることを
もって、未必の故意を認定するおそれがある。そういう配慮がまったく
ない。

3番目の、「世の中一般」において、「民間の方が独自に収集をした
情報」や「既に公になっている情報」の保有が処罰の対象とされかね
ないという、「一種のホラーストーリー」が流布していることは知ら
なかった。

4番目の、罰則規定に当たらないはずの行為に関しても逮捕や捜索が
行われる危険性があると言われるが、長谷部教授は、「そうした危険が
そうそうあるとは私は考えておりませんが、もちろん、中には大変な
悪巧みをする捜査官がいて」「そうした捜査官は、実はどんな法律で
あっても悪用するでございましょうから、そうした捜査官が出現する
可能性が否定できないということは、まさにこの法案を取り上げて
批判する根拠にはならないのではないか。」と言う。犯罪捜査の実情を
全く知らない妄言だ。結果(犯罪に見える状態)が発生すれば、捜査
機関が動くのは何ら不思議ではない。当たり前のことだ。まして、
結果が重大であれば、尚更だ。自分が知らないことまで、国会議員を
前に堂々と話す態度には呆れる。

5番目の、報道機関の取材活動への悪影響については、外務省機密
漏えい事件最高裁決定があるとして、「よほどおかしな取材の仕方を
しない限り」大丈夫だと、「さほど困った問題ではない」と、軽く
言い切っている。「よほどおかしな取材の仕方」は犯罪ではない。
なのに、なぜ処罰されるのか。その説明はない。西山記者の女性事務官に
対する態度を問題視しているが、その実態は双方結婚している者が
親密な関係になってその後付き合わなくなっただけのことで、犯罪視
するようなことではない。そういう分析が十分に可能なのに、長谷部
教授は全く考慮しないで、「よほどおかしな取材の仕方」と決め付ける。
学者らしい慎重さはない。

呆れる、という言葉しかない。

田島教授は、憲法の基本原理との関係で論じている。法案が憲法を軽視
しているということは言えるだろう。国会議員には憲法に立ち返って
法案の問題点を考えてもらいたい。

春名客員教授は、元ジャーナリストで、アメリカの制度の実情を説明して
いて、興味深い。

永野教授は、「これまでこのような法律がなかったこと、すなわち法の
欠缺こそが本法案の立法事実であり、何か特定の秘密漏えい事案が法案
提出の立法事実として必要であるという見解は誤りである」と、国会
議員に説明している。これは、日弁連の総会決議(2012年5月25日)など
に対する反論のつもりなのだろうが、法律実務家であればだれでも知って
いる基礎知識である立法事実論さえ知らないことを露呈してしまっている。