だれの敗北か?

 2月5日付の毎日新聞記事によると

 作家の村上春樹氏が月刊誌「文芸春秋」の昨年12月号に発表した短編
小説で、北海道中頓別(なかとんべつ)町ではたばこのポイ捨てが「普通の
こと」と表現したのは事実に反するとして、同町議らが文芸春秋に真意を
尋ねる質問状を近く送ることを決めた。町議は「町にとって屈辱的な内容。
見過ごせない」と話している。

のだそうだ。

 「それが何か?」ではないか。こんなことで作家や出版社に抗議とは。
それに、これが報道するに値する社会問題だろうか。

 こんなことで表現者に修正させるというのなら、アメリカ映画の『ロボ
コップ』はどうなる。『ロボコップ』の舞台になったのは、近未来という
設定ではあるけれど、デトロイトという実名都市だ。デトロイトは映画の
中でとんでもない「犯罪都市」として描かれており、世界中に有名になって
しまった。
近未来だから、世界中の人が、「あそこには引っ越さない」
「あそこには旅行しない」「あそこに住む人とは付き合うのはやめる」なんて、
大騒ぎになっただろうか。・・・ぜ〜ん然、ではないか。

 現実と映画はちがう。小説もそう。データの正確性が求められる旅行ガイド
ブックでもあるまいし、小説中に、「あ、似ている場所!」という発見がある
としても、小説に書かれていることが丸ごと現実だなんて思う人はいない。
そんなことは常識中の常識ではないか。

 「たぶん中頓別町ではみんなが普通にやっていることなのだろう」

 にしたって、「ちがうぞ!」と怒る前に、「これがホントかどうか見に来て
ね!」で、町の宣伝に使ってしまえばいいではないか。遊び心がないなあ。
人間関係がギスギスするばかりだ。この方がよっぽどよくない。

 「中頓別町という名前の響きが昔から好きで、今回小説の中で使わせて
いただいたのですが、
これ以上のご迷惑をかけないよう、単行本にする時には
別の名前に変えたいと思っています」

 村上春樹氏は抗議文をまだ受け取っていないけど、さっさと応じることにした。
これって、解決なのだろうか?