不明女性の7年間の生活費の負担とこれから

 行政に保護されていた認知症の女性の7年間の間の生活費を、女性を保護していた
群馬県館林市は、女性の家族に請求するかどうかが問題になっていた。

 生活保護制度の仕組みからすれば、市が本人か家族に請求するのはおかしくない。
市の費用で助けてやっていたのだから、本人に十分な資産があれば、または、同居の
家族に十分な資産があれば、「払ってください」と言うのはおかしくない。

 この問題について、市は、「人命を守るのは当然の責務。人道的見地から施設入所
措置をした」と総括したうえで、かかった経費を請求しない方針を決めたとのことだ。
ただ、全国的にも前例がないため、今後、女性の資力などを確認し、国や県と協議し
たうえで正式に決定するとのことだ。

 これに対して群馬県庁は「生活費の算出や本人の資力の確認には相当な手間と時
間がかかる」(健康福祉課)として、慎重姿勢を崩していない。

 市は英断を下しているようだが、「ただ」以下の言い方からすると、県と同じ考え方に
立っているようにも読める。市の「人命を守るのは当然の責務。人道的見地から施設入
所措置をした」という総括からは女性や家族に請求しないという結論は導けない。救う
ことと、費用をだれが負担するかは別問題だからだ。

 5月15日のブログに書いたけれど、7年間一緒にいられなかった空白期間をだれが
作ったのか。家族は女性を捨てたのではない。探していたのに見つからなかったのだ。
7年間の精神的苦痛はしっかり配慮されるべきだ。

 だれが女性と家族のかけがえのない7年間という時間を奪ったのか。
 警察だ。警察の制度と警察官の対応がまともだったら、女性は所在不明になってから
1日、2日で家に帰れたにちがいない。そうすれば、女性は認知症が進んでいたにせよ、
家族としか持つことのできない時間を持つことができたのだ。

 館林市には落ち度はない。だから、同市(の市民)の費用負担とすべきではない。警
察の対応に問題があったのだから、県(県警)と国(警察庁)が費用を負担すべきだ。
仮に女性や女性の家族に費用負担をさせるのなら、7年間の精神的苦痛に対する賠
償責任は果たすべきだ。それくらいのことをしないと、問題点は今後も曖昧にされたま
まに放置され、これからも同じようなことが繰り返されることになるだろう。

 警察が「冗談じゃない」と思うのであれば、今回だけは賠償責任を果たすことにして、
今後については、警察は行方不明者を探す業務をしないことを社会に明言し、人々は
警察をあてにしない他の仕組みをつくるべきだ。現代の情報環境では案外実現可能
ではないかと思う。