国会の情報監視審査会の創設は無意味か?

 沖縄タイムスが5月27日の社説で、公明・自民・維新・みんなの4党が、特定
秘密保護法附則第10条に基づいて、国会に特定秘密の監視機関を設けようと
していることを批判している。
 秘密保護法に反対の新聞社にはどうも不人気のようだ。賛成している新聞社
が賛成なのかは知らない。どちらからも人気がない?

 沖縄タイムスの社説は、「こんな権限しか与えられていない機関ではとても監
視することはできない。形ばかりの設置というほかない。」と言い切る。

 「審査会は政府から毎年、特定秘密の指定や解除などの運用状況の報告を
受け、指定が不適切だと判断すれば、解除などを勧告することができる。また
秘密の提供を政府が拒んだ場合は、提出するよう勧告することができる。」

 そのとおり。

 社説は続けて、「問題はいずれの場合も勧告に強制力がないことである。政
府が特定秘密保護法に基づき「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそ
れ」を盾にすれば、何でも拒否することができるのである。内部告発者に対す
る保護も明記されていない。」

 そのとおり。
 だが、勧告に強制力がないことを問題にするのは誤りだ。
社説も書いているように、憲法三権分立を採用している。行政機関が秘密
指定した情報について国会が解除できてしまったのでは、三権分立に反して
しまう。行政機関が秘密指定をし、行政機関が指定を解除するという仕組み
を変えることはできない。

 社説の、「三権分立の下では、政府をチェックするのは国権の最高機関で、
国民の代表である国会の務めである。」は正し い。しかし、「審査会が強制
力を持たないのであれば、政府に歯止めをかけることができず、権力分立を
危機に陥れてしまうものだ。」という論理運びは誤りだ。

 ここには、政府のチェックは、秘密指定解除をすることだという思い込みが
ある。
 そうではないのだ。秘密指定解除ができなくても、秘密情報を行政機関以
外の者がみて、「これを特定秘密にしておくのはおかしいでしょ」と指摘する
だけでも、国民も国際社会も、どうも日本の行政機関は秘密にしてはいけな
い情報を秘密指定しているらしい、と胡散臭い目でみる。国民やマスコミは
行政機関に秘密指定の解除を強く求めることになるだろう。そのような攻防
が起こること自体、民主主義社会にとって望ましいことだと思う。一気に結論
(指定解除)ができないなら意味がない、とは言えないのではないだろうか。

 社説は、「これでは、審査会に監視という名前を冠しただけで、実際にチェ
ック機能を果たすことはとうていできない。」と断じるが、これまでの何もない
状態よりは遥かに前進だと評価すべきではないか。

 社説は、「審査会をそれぞれ議員8人で構成することも疑問だ。」と言う。
私もこれは少な過ぎると思う。
 国家にとって重要な問題であるから、多様な議論が活発に行われるように
する必要があり、そのためには十数人から20人程度は必要ではないか。

 社説は、8人ではダメな理由を、「各会派の議員数に応じて割り振ることに
なり、審査会は1強の自民党が仕切ることになるのは間違いないからだ。」と
言うが、これは委員の人数の問題ではなく、与野党の委員の構成をどうする
かという問題である。委員の人数をもっと増やし、与党から委員長を出し、そ
の他の委員の構成は与野党で半々とするか、与党の委員をひとりだけ多くし
ておくか、この辺りは政策判断だろう。与党議員を野党議員より少なくする制
度設計は現実には考えにくいだろう。重要なことは、与野党の議員が秘密情
報を巡って活発な議論をする場ができることである。
 「各会派の議員数に応じて割り振る」という委員構成の配分は、活発な議論
を期待する者からすると、そもそも当面の活動はあまり期待できないかもしれ
ないという意味で、美しくない。
 その点から社説が、「結局、政府主導で運用が進むのは、目に見えている。」
と嘆くのは理解できる。

 社説は、「審査会が各省庁の膨大な特定秘密をどう選択し、提出を求めるこ
とができるかどうかも心もとない。」と不安を指摘する。そのとおりだが、ここは
審査会が機能できるようにするために、国会と国民に対して秘密指定の運用
状況を如何にわかりやすく報告できるようになるかが1つのカギになって来る
だろう。

 秘密保護法の施行時期が刻々と迫っているいま、十分とは言えなくても、国
会に審査会を設けることは、これから先のことを考えれば、ないよりずっとマ
シだと思う。

 そもそも特定秘密保護法ができていなくても、国民に秘密にしている情報自
体はこれまでもあったし、これからもある。官僚の恣意をできるだけ抑制する
ための仕組みは多様に必要だ。情報公開法はその1つだが、この法律では特
定秘密には辿り着けない。国民にできないこの部分を不十分ながらも国会が
できるようにしておくべきではないか。