自然災害対策と国際テロ対策

 広島市の土石流被害はすさまじい。
 連日の報道をみるにつけ、ひとりでも多くの人が助かってほしいと思う。

 この報道に接している最中の一昨日、わたしは、長崎県島原市に出張したついでに、土石流被災
家屋保存公園とがまだすドームに行った。

 若い人は知らないかもしれない。1990年の雲仙普賢岳の大爆発。火砕流もすごかったが、その
後の土石流被害が凄まじい。土石流は、山肌から湧き上がって、すごい速さで山を下り、平野部を
駆け抜け、有明海に至った。

 土石流被災家屋保存公園は、土石流に埋まった家屋をそのまま保存したもの。二階建ての家屋
では、一階部分を土石流が通り抜け、二階部分の外観はほぼ無傷に見える。平家建ての建物は、
瓦屋根のてっぺんの部分をわずかに地表に残しただけでほぼ完全に埋まっていた。

 土石流に飲み込まれたら、確実に死ぬ。
 広島市の被災地の土石流の痕をみても、そう思う。

 がまだすドームでは、火山爆発のメカニズムや火砕流、土石流の実際などがわかりやすい展示
で説明している。1990年の普賢岳の大爆発のときの様子を疑似体験するコーナーもあって、これ
がわりとリアルにできていて、少し怖くなったり、気分が悪くなったりする人も出そうなくらいにできて
いる。火砕流の流れる速さを観て疑似体験できるコーナーがあるが、あまりの速さ(時速約100キ
ロメートル)に最初は目が追いついて行かない。土石流に見舞われた地域の原寸大の再現はまる
で廃墟。取材中に火砕流に呑み込まれて亡くなったカメラマンが残したテレビカメラとその映像など
など。

 実際にあったことだけに、自然現象(災害)のとてつもない威力にただただ驚き、恐怖するばかり
だ。

 島原市では、土石流は事前予測されていたので、地域住民全員が避難していて、被害者ゼロだ
った。これに比べて、広島市の土石流では、地域住民は事前に避難していなかった。被害が深刻
になるはずだ。

 わたしたち日本に暮らす者は、日本は甚大な自然災害をときどき受ける国だという自覚をもつべ
きだろう。そして、その自覚を前提に、防災はできなくても、減災は様々な工夫と努力でできるはず
だという考え方で、被災者の日常生活を取り戻すための支援と減災にこそ国力(お金も)を注ぐべ
きだ。その努力は、外国で発生した災害の援助にも確実に役立つはずだ。

 国は、いま、2020年の東京オリンピックにかこつけて、国際テロ対策と称して警察予算を膨大
にしつつあるが、これまで国際テロの標的にされたことのない日本が、今後、標的にされるという
論には、甚大な自然災害とちがって、リアリティがない。これから国際テロの標的になるような国際
政治をするということなのか。そうであれば、それは止めてほしい。リアリティのない、脅しというべ
き危機(「万が一のときどうするんだ」論)よりも、現実の深刻な自然災害対策こそ優先されるべき
だ。
 土石流被災家屋保存公園、がまだすドームで見た光景を見るにつけ、広島市民の深刻な被害を
目の当たりにするにつけ、そう思う。
 いまの日本の経済状態は、あれもこれもではなく、何を優先すべきかを国民がしっかり考えなけ
ればいけない時期ではないか。