「面倒」を引き受ける

 2014年8月28日付朝日新聞社説は、「パブコメ制度―「面倒」を引き受ける」と題して、特定秘密保護法
パブコメについて取り上げている。

 「面倒」を引き受ける。
 いい心構えだ。・・・で、だれが引き受けるんだ?

 ≪いくらいい制度があっても、うまく生かそうという意思をもって動かさなければ役に立たない。パブリックコ
メント(意見公募)制度がその好例だろう。≫

 「役に立たない」というより、意味がない。

 ≪99年の閣議決定で導入され、05年の行政手続法改正で法制化された。政令や省令などを定める際に
は、「案」の段階で一般に公表し、広く意見を募る。行政運営の透明性を高めて公正さを確保し、国民の権利
や利益の保護に役立てることが目的で、寄せられた意見は「十分に考慮しなければならない」と定められてい
る。≫

 そのとおり。

 ≪ところが安倍政権下において、パブコメは単なる「通過儀礼」と化している。≫

 具体的には?

 ≪昨秋、特定秘密保護法案の国会提出前に実施されたパブコメには約9万件が寄せられた。賛成13%、
反対77%だったが、十分に考慮された形跡はない。≫

 たしかにあれはかなり強引だった。与党の国会議員ですら、法案の問題点(例えば、国会の位置づけや国
会議員に対する重い刑罰など)を明確に意識していなかった。

 ≪エネルギー基本計画の原案には1万9千件。賛否の内訳は公表されないまま、原発は「重要なベースロ
ード電源」と位置づけられ、今年4月に閣議決定された。その後、朝日新聞が情報公開請求に基づき賛否を
集計したところ、脱原発を求める意見が9割を超えていた可能性があることがわかっている。≫

 閣議決定がすでに予定されていたとしても、パブコメに集まった意見の内容は公表すべきだ。

 ≪民主党政権は12年に「30年代に原発稼働ゼロ」の方針を決める際、パブコメに加え、討論型世論調査
も実施した。重要政策に関しては、民意の堅い下支えがあるに越したことはない。≫
 
 「民意の堅い下支え」は重要だ。

 ≪安倍政権は選挙で勝った自分たちこそが民意だと言わんばかりの手荒さで、民意の吸い上げと反映を
怠っているが、長い目で見れば、それは政権の基盤を弱くするだろう。≫

 1つの政党を選挙で圧勝させれば、「自分たちの勢力が強い間に」と考えて動くことになるのはほぼ必然。

 ≪さて≫

 ここからが本題。

 ≪先日、秘密法の運用基準と政令の素案に対するパブコメが締め切られた。単なる賛否ではなく、問題
点などを具体的に指摘しなければならない。素案や資料は大量かつ難解で、読み込むには骨が折れるが、
各地で勉強会が開かれ、ネット上には書き方を指南するサイトもさまざま登場した。政府に勝手に決めさ
せないために、「面倒」を引き受ける。そんな主権者としての自覚がうかがえる。≫

 「面倒」にカッコがついているのは、単なる面倒ごとではなく、意味あることだという意味を含意しているの
だろう。そう思う。その「面倒」を主権者たる国民が引き受けたという。単なる「賛成」「反対」に止まらず、内
容を真剣に考えてくれる人がたくさん出て来てくれるようになったことはいいことだ。それを、「主権者として
の自覚がうかがえる」と評価する。これって、上から目線になっていないか。

 ≪パブコメはこのあと、素案を了承した「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄読売新聞グループ本社
会長・主筆)に打ち返される。諮問会議は、その議論を公開してはどうか。≫

 と注文する前に、言論の自由の重要性をよく知っているはずの新聞社で構成する新聞協会こそ、新聞協
会としての考えを明確にすべきだ。中途半端にしかまとめられないのか、およそまとめられないのかはとも
かく、沈黙でいいのか。
 新聞協会の加盟社である読売新聞のグループ本社会長・主筆が情報保全諮問会議の座長を務めている
ことはどうなのか。なぜ、沈黙するのか。
 公開してもいいかもしれないが、議事録を読めばわかるように、あまり深い議論はしていない。マスコミの
記者が立ち会って監視することで議論の暴走を止めるという感じではない。

 ≪自由な意見を言いにくくなるなどの懸念もあるだろう。≫

 「自由な意見を言いにくくなる」ということもないと思う。政府は、ただ、同じような会議の公開非公開と横
並びの運用を考えているだけなのではないだろうか。

 ≪だが、みんなが少しずつ「面倒」を引き受けなければ、民主主義はうまく機能しない。国民の根強い不
安と批判に、有識者は正面から答えてほしい。≫

 「みんな」の中に新聞も含まれる。新聞協会、新聞業界はどのように「面倒」を引き受けて来たのか、引
き受けているのか、引き受けるのか。

 「国民の根強い不安と批判に、有識者は正面から答えてほしい」とは、具体的にどうすることなのだろう
か。「有識者」はこれまで「正面から答えて」いなかったということなのだろうか。そうれなら、何が足りなか
ったのだろうか。自分が実際にやっていることを念頭において考えたとき、何をいわれているのかわから
ない。自分ではかなり十分に「面倒」を引き受けているつもりなんだけど。