総理の発言「報道抑圧なら辞任」を読み解く

 安倍総理NHKのニュースウォッチ9で見かけたと思ったら、日本テレビ
TBSテレビにも出ていたらしい。テレビはまるで安倍総理の広報役になった
感がないではない。

 わたしも1年前は秘密保護法案の問題であっちこっちのテレビ局に呼ばれ
て、結構、言いたいことを言わせてもらっていた。安倍総理も、1年前のわた
しと同様、いまがテレビ局から次々にお声が掛かっている状態なのだろうか。

 安倍総理が、テレビに頻繁に出ることは自己宣伝という面があることは確
かで、これを批判する人たちもいるが、わたしは、総理大臣が自分のペース
でまとめて話をするのを主権者として聞くのも悪くないと思っている。

 要は、聴く側の聴く力の問題なのだ。
 言葉を弄んでいる言葉ごっこなのか、考え抜いた真剣な事の葉を紡いで
いる真剣勝負なのかを聞き分ける、見分ける力量が国民にあるか。あれば、
相手は慎重に言葉を選ぶだろうが、なければ、相手が嘗めてかかって来る
のは当たり前だ。
 それが言論というものであり、言葉を交わすことで合意を形成する民主主
義だ。質の高い民主主義をやってみたいのなら、ひとりひとりが自分の力量
を高めなければならない。
 その努力をしないで、街頭インタビューでわかったような言葉を発していい
ことを言った気になっているようでは、民主主義は空洞化するばかりだ。

 安倍総理の言葉はどこが本物でどこがパフォーマンスなのか。きっぱり言っ
ていることをその文字面だけで、いい、悪いを判断してはいけない。その奥
を読み込む必要がある。

 ところで、安倍総理はTBSテレビで、「特定秘密(保護)法は、工作員とか
テロリスト、スパイを相手にしていますから、国民は全く基本的に関係ない
んですよ。報道が抑圧されたら、私は辞めますよ」
と言ったらしい。

 この言葉にキャスターがどう反論したか知らないが、「特定秘密(保護)法
は、工作員とかテロリスト、スパイを相手にしていますから、国民は全く基本
的に関係ない」という説明は正確ではない。

 就職に失敗した北大生や中田氏(元同志社大学教授)、常岡氏(フリージ
ャーナリスト)を、警視庁公安部がこれまで1度も適用されたことのない私
戦予備・陰謀罪の被疑者として扱っている信じがたい現状からすると、警
視庁公安部が「工作員」「テロリスト」「スパイ」をどのようなものとして理解
しているのか全く想像がつかない。
こういう人たちとたまたま同席しただけ
でも「共謀」していたと見られかねない。なので、「国民は全く関係ない」とは
言えない。ただ、安倍総理「基本的に」と言っているので、「基本」でない
場合があることを認めているとは言える
のだろう。

 「報道が抑圧されたら、私は辞めますよ」は張ったりではない、と思う。安
倍総理はおそらく日本のマスコミの現状を見切っているのだ。
 行政機関は記者クラブの記者を完全に手懐けている。本社はそれでよしと
している。かつて北海道新聞の記者たちが北海道警察本部の捜査費裏金問
題を徹底的に追及していたとき、道警幹部から「飼い犬に手を咬まれた」と言
われたそうだ。それが官僚の記者に対する見方だ。
 だから特定秘密に近づこうなんてする記者はいない、だからマスコミが抑圧
されることなんてない、だから報道が抑圧されて自分が総理大臣を辞めるよう
な展開は起こらない。

 そういう背景と自信が安倍総理の発言の前提になっている、としたらどうだ
ろうか。安倍総理と国民一般(マスコミも)では、本気度に差があり過ぎる感
じがする。