「イスラム国」と外務省と警視庁公安部

 『週刊ポスト』(12月5日号)
 中田氏の説明によると、「イスラム国」内で暮らす99%の人はふつうの生活を
営んでいる人たちだ
とのこと。これが正しいかどうか私にはわからない。

 しかし、正しいとすれば、「イスラム国」内の人と連絡を取り合うことを直ちに私戦
予備・陰謀罪に結び付けるのはまちがいだ。

 中田氏は、シリアの激戦地アレッポで「イスラム国」に身柄を拘束された湯川遙菜
氏を救出するために、外務省の協力を得て、トルコ経由で「イスラム国」に入ろうと
していたが、外務省は、情報の収集や救出の努力をしている、シリア全土は退避
勧告中なので行かないで欲しい
、と門前払いだったという。

 中田氏が独自の判断でトルコのイスタンブール空港に着くと、日本領事館のスタ
ッフが待ち構えていて、「勝手にシリアに入国しても安全は確保できない」。外務省
は救出に関わりを持たないという伝言。

 そしてシリア(「イスラム国」地域)に入るまでに日にちがかかっている間に、シリア
国内で空爆が始まり、湯川氏の身柄を確保している者との連絡が取れなくなり、湯
川氏の行方はわからなくなった。

 外務省のこのもたもたは何だ。
 官僚たちは、湯川氏を結局救出できなかった、中田氏が「イスラム国」内で死傷
する、などの問題が起こったとき、だれが責任を取るのか
ということを考えただろう。
イスラム国」の内情を知らない官僚たちは、「それなら静観するにかぎる」という、
だれもマイナス評価を受けることのない無難路線を選んだのだ。
湯川氏が民間軍
事会社の代表だったということも、動かない動機になっていたかもしれない。
 外務大臣が指示すれば動いたかもしれない。しかし、外務大臣も官僚と同じことを
考えて指示を出さなかったのかもしれない。

 外務省(報道課)は「事案の性質上、詳細は答えられない」と答えているそうだ。
「事案の性質上」は意味不明、理解不能。「事案の性質上」と言うのなら、海外の情
勢は国民一般にはわからないのだから、むしろ、できるだけ説明すべきだ。
「詳細」
も何も答えていないではないか。それなりの仕事をしているのなら、それなりに説明
すべきだ。

 中田氏は「公式、非公式に外務省とイスラムのパイプ役を果たしてきた」という。
 それが事実であるならば、そのことを外務省は警視庁公安部に説明しているのだ
ろうか。外務省が説明していないとすれば、なんという恥知らずだろうか。外務省が
説明しているとすれば、警視庁公安部はなんという無法者なのだろうか。