テロリスト対策を考える

 海外のニュースでも、予想外の殺傷事件や爆破事件などが起こると、実行行為者を
「テロリスト」と呼び、イスラム過激思想に影響を受けていたことを問題にする。フ
ランスの風刺週刊紙シャルリー・エブド本社襲撃に端を発した一連の殺傷事件につい
ても同じだ。

 日本では、近いうちに、警察庁が発信源となって、「国際テロ対策」と称して、「日本
で同じような事件が起こらないよう、警備をさらに強化する必要があると。そのために
警察予算を増やすべきだ」と言い出すにちがいない。マスコミもきっと同調するだろう。

 が、それが効果的な対策なのだろうか。

 シャルリー・エブド本社を襲撃した3人の実行犯は、生まれながらのテロリストでは
なかった。

 産経新聞 1月12日(月)7時55分配信によれば、襲撃事件を起こし印刷会社で射
殺された兄弟、サイド・クアシ(34)、シェリフ・クアシ(32)は、≪アルジェリア系移民
の家庭に生まれた。兄弟は幼い頃に両親と死別、仏西部レンヌの孤児院で育った。≫
 これだけでも、ふつうに生まれ育った人たちと比べて、社会生活上、大きなハンディ
があることがわかる。

 ≪弟シェリフ容疑者は、移民が多く住むパリ北西の郊外ジュヌビリエのアパートに妻
と暮らしていた。隣人のバデ氏は「彼は礼儀正しく友好的だった。老人や身体障害者
を助けようとする若者だった」と述べ、驚きを隠さなかった。≫
 これはテロリストではない。

 ≪同容疑者はピザ配達員などの仕事をしながらラッパーとしても活動。≫
 これもテロリストではない。

 ≪地元モスク(イスラム礼拝所)で同年代の若い宗教指導者と出会い、イスラム
義に目覚め、イラクアブグレイブ刑務所での米軍による捕虜虐待に怒り、≫という
ところまでは、テロリストではない。
 アブグレイブ刑務所での捕虜虐待は、2004年に発覚し、米国国防省は、17人の
軍人と職員を解任し、7人の軍人が軍法会議で有罪となった。
怒りは当然だ。

 この怒りをきっかけに、シェリフは過激思想に傾倒していったらしい。ここで選択をま
ちがえた。なぜ、まちがえたのか。

 ≪過激派の再教育に取り組む民間団体、クイリアム財団(本部・ロンドン)の専門家
は「移民出身の若者は社会で疎外感を覚え、個人的な危機のときに説教師と知り合
い過激化する。過激化した若者をテロリストにするのは難しくはない。
それを食い止
めることが重要だ」と強調した。≫

 社会に受け容れられていないという疎外感が強まるほど、その社会とは正反対のと
ころにいる人たちへの親和性を高め、自分を受け容れてもらい評価してもらうことで、
一気に心酔、妄信に至る。それがときとしてテロリストを生む。
 社会的孤立による疎外感。そこから逃れるために共感先を必死に捜す。その共感
先にのめり込んだとき、そこに破滅が待っているということがある。
これはだれにも起
こり得る問題であって、テロリスト特有の問題ではない。警察権力を強化しておけば解
決するという問題でもない。