特定秘密保護法と会計検査院

毎日新聞特定秘密保護法の問題をしつこく追及し続けている記者がいる。
昨日の朝刊(2015年12月8日 東京朝刊)の1面トップ記事はその記者が書いたもの。

特定秘密保護法案の閣議決定を控えた2013年9月、法が成立すれば秘密指定書
類が会計検査に提出されない恐れがあるとして、会計検査院が「すべてを検査するとし
ている憲法の規定上、問題」と内閣官房に指摘していたことが分かった。検査院は条文
修正を求めたが、受け入れられないまま特定秘密保護法は成立。内閣官房は修正しな
い代わりに、施行後も従来通り会計検査に応じるよう各省庁に通達すると約束したが、
法成立後2年たっても通達を出していない。≫

とても重要な指摘だ。

会計検査院が実際にどれほど仕事をして来たかということについては疑問がある。都道
府県警察の捜査費の不正経理の追及は、情報公開請求や内部告発などによる断片的
情報をもとに市民オンブズマンや新聞(突出していたのは北海道新聞!)が行っていた。
「どうして会計検査院は動かないのか」「毎年、会計検査院の予算分の不正経理額しか
追及しないのではないか」と、弁護士同士で話していた。

それはともかく、法律によって憲法上の権限を制約してしまうことは問題だ。
内閣官房は修正しない代わりに、施行後も従来通り会計検査に応じるよう各省庁に通
達すると約束した」ということであれば、この約束が実行され、現に聖域なく会計検査に
応じてもらえるなら、実務上の支障はないのかもしれない。が、「法成立後2年たっても
通達を出していない」とのことである。

いま、該当条文はどうなっているか。

≪10日で施行1年を迎える特定秘密保護法の10条1項は、秘密を指定した行政機関
が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば、国会などか
ら求められても秘密の提示を拒むことができるとしている。≫

逆に言えば、会計検査の手続が「おそれがない」という条件を充たしている組織であれ
ば、提示を拒否されることはない、ということになる。
この部分が、行政機関の長の主観
ではなく、制度的担保として客観化されるなら、その条件を常に確保しておくことで、会計
検査院はその権限を行使できるはずだ。行政機関側は拒否してはならない。

≪開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、「安全
保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象
の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、
国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているた
めだ。≫

憲法90条:国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、
次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

「すべて」とある。法律で例外をつくることは許されない。

2013年9月。国会に法案を提出する直前だ。
この時期、一般には法案概要が公表されていたから、「政府原案」を示されたことは国
民に対する提示に比べれば少しだけ早い。が、法案提出前にとにかくみせればいいと
いうものではない。もっと早い時期に提示されるべきだった。

≪ところが、内閣官房は「検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けること
は可能」などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくとも
さらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。≫

特定秘密保護法ができる前、会計検査院防衛省の防衛秘密についても会計検査をし
ていたのだろうか。していたのに、特定秘密保護法が従来の会計検査を妨害するよう
なことがあってはならない。憲法の規定に沿う条文に改正するのが本筋だ。

≪結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修
正をしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた
場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達
することで合意した。
約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出さ
れて同年12月に成立した。≫

それから2年たつが7日までに通達は出ていない。会計検査院法規課は取材に「今の
ところ、特定秘密を含む文書が検査対象になったという報告は受けていない」とした上
で「我々は憲法に基づいてやっており、情報が確実に取れることが重要。内閣官房
は通達を出してもらわないといけない。
(条文の修正を求めるかどうかは)運用状況を
見てのことになる」と話した。

内閣官房内閣情報調査室は取材に憲法上の問題があるとは認識していない。会
計検査において特段の問題が生じているとは承知していない」
と答えた。通達につい
ては「適切な時期に出すことを考えている」としている。≫

模範的な官僚だ。が、憲法上の問題があることは認めるべきだろう。でないと、話がか
み合わない、話が進展しない。

解説記事。

会計検査院にとって、大日本帝国憲法下では軍事関係予算の検査に限界があった。
政府・軍の機密費が会計検査の対象外だったため、膨れ上がった軍関係予算の多くが
ブラックボックスに入った。「会計検査院百年史」は、軍事上の秘密漏えいを処罰する
軍機保護法(1937年改正)によって「会計検査はかなり制約を受けた」と記す。≫

会計のチェックが入らないと、権力は暴走の危険がある。最近まで警察の捜査費がそ
うだった。

≪現行憲法90条はこうした反省から「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査
院が検査する」と規定する。検査院は内閣から独立している。これまでも自衛隊法の
規定する防衛秘密について検査院への提供を制限する規定はなかった。≫

で、防衛秘密に関連する会計検査をしたことはあるの?

≪特定秘密には防衛や外交などの予算措置に関する文書が含まれる。≫

≪秘密保護法10条1項について、元会計検査院局長の有川博・日本大教授(公共政
策)は「検査を受ける側が(提出文書を)選別できるなら、憲法90条に抵触すると言
わざるを得ない」
と指摘する。≫

そういうことだろう。