介護殺人犯へのメッセージ
昨夜のNスペは、強烈だった。
認知症の母親の介護が始まってから妻と離婚し、自分は離職し収入を失い、母親の年金だけ
で、24時間、母親とふたりだけの暮らしを続けている男性(51才)。「自由がない」。デイケア
を頼むようになって、その時間帯だけが母親に関わらなくて済む、人生唯一の自由な時間。
その人が、取材記者から介護殺人をしてしまった人に掛ける言葉を問われて、しばし黙り込む。
それから出た言葉が「加害者には『終わりましたね、介護が』と声をかけるしかないですね」。
それだけで沈黙。しばらくほかの言葉を捜している様子だったが、その後に出てきた言葉も同
じだった。「自分ならそんなことはしない」「あなたは母親の命を奪ったとんでもない人だ」という
ような批判めいた言葉は出なかった。かと言って、同調もしていない。「終わりましたね、介護
が」という事実を言うだけ。しかし、この言葉には言葉では言い尽くせない体一杯の思いが込
められていた。
心身が崩壊していく妻から繰り返し、「殺してほしい」と言われ、悩みに悩みぬいて、「後戻りは
できないんだよ」「うん」という言葉を交わした後、首を絞めた夫。どんな思いで首を絞めたのか。
そんな父親を、遠方に住む長男は「許さない」という。許さないとはどういうことだ。許すとはどう
ことか。両親がどういうことを考えながら生きてきたのか。息子はそれをどう理解し、考えている
のか。許すとか許さないとか言える立場なのか。許さない立場でいることを、母親はどう思って
いると考えているのだろうか。ここをちゃんと考えなければ、父親の思いだけでなく、母親の思
いも無視した自分勝手ということになる。
介護疲れに苦しんでいた兄に「手伝ってくれ」ではなく、「助けてくれ」と言われた失業中の弟。
兄と母親に家に移り住み、認知症が進んだ母親の介護を始めた。元気だったときのことしか記
憶にない弟にとって、目の前にいる母親は化け物の皮を被ったべつもの。自分が知っている母
親とあまりにも違う姿に驚愕し、母親が不憫になり、介護を初めて2ヶ月で母親を殺した。
そして、懲役8年。重いか軽いか、相場か。いずれにせよ、裁判所はそれで何を解決したのだ
ろうか。兄は、「弟が殺していなければ自分が殺していたに違いない」という。
どれも今の日本の現実。
私たちはこういう人たちと同じ社会に生きている。