「村中璃子」氏が「勝って」悔しがる東京高裁判決の中身

 10月30日、とても???な判決言い渡しがあった。

 弁護士人生でなかなか体験することがない判決の言い渡しを受けた。わたしのちょっと不思議な体験を解説する。

 

 発端は、月刊誌『ウェッジ』2016年7月号に、「村中璃子」という名前で、池田修一氏の厚労省研究班での研究に「捏造」行為があるという記事が掲載されたこと。

 

 池田氏は、研究に捏造行為などなく、記事は名誉毀損だと主張して、株式会社ウェッジ、当時の編集長の大江紀洋氏、「村中璃子」という名前で記事を書いた女性の三者を被告として、2016年8月、東京地裁に訴えを起こした。

わたしはほか2人の弁護士と池田氏の訴訟代理人を担当した。

 

 被告側の代理人は、ウェッジ社と大江氏は同じ弁護士がつき、「村中」氏は別の弁護士がついた。この時点からすでに被告側の方針に明確な違いがあることが読み取れた。同じなら会社の顧問弁護士にお願いした方が弁護士費用がかからなくて、フリージャーナリストとしては経済的にも助かる。「村中」氏は最初から出版社と編集長とは違う道を選んだ。

 

 提訴から約2年半。2019年3月26日、判決言い渡し。

 東京地裁は、「捏造」との記述は真実とは認められない、裏付け取材も不十分で「捏造」と信じた「相当な理由はない」として、池田氏の主張を全面的に認め、ウェッジ社、大江氏、「村中」氏に対し、連帯して、池田氏に合計330万円の慰謝料の支払うことのほか、ウェッジ社に対して月刊誌『ウェッジ』への謝罪広告の掲載と、ウェブ記事の一部削除を命じる判決を言い渡した。

 

 勝訴した池田氏と、敗訴したウェッジ社と大江氏は判決を受け入れて、控訴しなかった。ウェッジ社は、判決で命じられた慰謝料全額を池田氏に支払い、月刊誌『ウェッジ』に謝罪広告を掲載し、削除を命じられたウェブ記事の削除を実行した。

 

 地裁判決が命じた支払い等をウェッジ社が実行したことで、池田氏のウェッジ社、大江氏、「村中」氏に対する法律上の請求権は消滅した。大江氏と「村中」氏は池田氏から改めて請求されることはなくなり、判決に基づいて強制執行されるおそれがなくなった。だから、大江氏も「村中」氏も、池田氏からの請求を防ぐために控訴する必要はない。

 

 なのに、「村中」氏は東京高裁に控訴した。自分が記事を書いたウェッジや編集長だった大江氏から、ウェッジ社が敗訴内容を全部履行する予定か、した結果を聞いているのではないか。控訴して数十日経ってから開かれた口頭弁論期日になっても、「村中」氏が、ウェッジ社が一審判決で負けた債務を全部履行していることを知らないと言い続けたのには驚いた。

 

 高裁の口頭弁論期日は8月28日に1回開かれただけで結審した。裁判長は、次回期日は判決を言い渡すと告げた。それが10月30日。

 

 判決主文は、原判決主文の「村中」氏の敗訴部分を取り消した。が、理由は先に書いたとおり、ウェッジ社が全部支払を済ませているから、もう払わなくていいんだよと言っているだけだ。当たり前のことだ。

 

 逆に、控訴された池田氏に“お土産”をくれた。判決理由で、一審と同じく、本件各記事により池田氏の名誉が毀損され、「村中」氏の不法行為が成立し、その損害額も330万円であると、再度、明確に認定してくれたのだ。「村中」氏が高裁でした主張も悉く排斥した。一審判決をさらにダメ押しした形での、池田氏の実質的な全面勝訴の内容だ。

 

 判決主文で「勝った」「村中」氏は最高裁に上告できない。自衛隊イラク派遣差止訴訟の名古屋高裁判決が出たときの国の立場にちょっと似ている。