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今日、札幌地裁で、警察官の証言の信用性を否定して、原告の慰謝料請求を認める画期的な判決があった。市民が警察相手(手続上は都道府県が被告になる)に起こす国家賠償請求訴訟で勝つことはめずらしいのだが、画期的なのは勝ったことではない。原告と被告で主張が異なる事実経過について、裁判所が、原告が事件当時、記録していた録画と音声を証拠として採用して、これと、原告の証言、原告に関わった警察官らの証言を比較して、原告の証言が録画と音声に合致しているとして、警察官の証言の信用性を否定し、原告の証言を事実と認定したことである。
この点だけをみると、警察の失態が露見し警察が負けたことがニュース、つまり、社会的に意味があるようにみえるかもしれないが、そうではない。
警察官の日常業務は日々、未知の人々との遭遇である。警察官の方が却って被害を受けることもなくはないだろう。しかし、はっきりした客観的な証拠がなければ、警察官と言えども、相手こそが粗暴な行動に出た加害者で自分は被害者だという証明がしにくく、泣き寝入りしなければならなくなることもあるだろう。
それが、この事件のように市民と警察官の動きや周囲の状況が継続的に可視化され、そのときの音声もわかるようになっていれば、手堅く適法に活動をしていた警察官は自分には問題がなく、相手市民にこそ問題があったということを簡単に証明できる。アメリカではすでに地域活動をしている警察官がウェアラブル端末を身に着けて地域を移動することになっており、これにより、警察署から現場の警察官の動きがリアルタイムでわかり、リアルタイムで助言することができる。新人の警察官もリアルタイムで警察署の助言、指示を受けることができ、問題が起こりにくくなる。警察官が対応していた市民側にこそ問題があったなら、そのこともすぐに確認できる。現場の警察官は、現場にいなかった上司に対して、面倒な弁解をするまでもなく、画像と音声で自分の職務活動の適法性を説明できる。
このような撮影は、事件性のない一般市民との関係ではプライバシー侵害になる可能性がないわけではないが、事件性がなければ短期間のうちに廃棄するということを制度化しておけば、プライバシー侵害性は低くなる。
敗訴判決を受けた北海道が控訴し、やがて逆転勝訴することがあったとしても、この判決が示した事実認定の仕方は、今後、他の裁判所でも採用される可能性は十分にあるから、警察活動の実務に影響を与える重要な判決である。