「テロリズム」とはなにか?

 国会の審議で、「国際テロ」という言葉がよく出て来る。9.11の話も出て来る。
そこでは、「だから、秘密保護法が必要なのだ」という論調で使われる。

 しかし、この言い回しは詭弁だ。

 秘密保護法案に規定されている「テロリズム」の定義は、「政治上その他の主義主張に
基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で
人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」
だ。

 森雅子担当大臣は、国会の答弁で、目的犯だから不当な拡大解釈はない、という趣旨の
説明をしていた。
 森大臣は弁護士。自分の条文解釈がまちがっていることを知っているはずだ。
気づかなかった
とすれば、条文解釈を基礎から学習しなおした方がいい。

 「政治上その他の主義主張に基づき」はすべての行為類型に共通する。
 「国家若しくは他人にこれを強要し」と、「社会に不安若しくは恐怖を与える目的で
人を殺傷し」
、「重要な施設その他の物を破壊する」は、「又は」でつながっている
ので、別々の行為類型を書いたものだ。
 だから、「政治上その他の主義主張に基づき」「国家若しくは他人にこれを強要」
「するための活動」が、テロリズムの一類型として規定されていることになる。

 強要さえしなければいいんだよね、と常識的な感覚で軽く考えると、とんでもない
ことになる。どういうことをすると、裁判官が「強要」と評価するかは、予測不能
のだ。
 刑法では公務執行妨害罪を、「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行
又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」
(第95条第1項)と定義しているが、この「暴行」は、公務員の身体に対する直接の暴行
ではなくてもよくて、公務員の近くに物を投げ付けるようなことでもいい(「間接暴行」
という。)というのが、判例の考え方だ。え、これが「暴行」! 驚くでしょ。

 裁判所というところは、公務員(しかも上記の事例は警察官)を過保護と言っていい
くらい守ろうとするのだ。

 秘密保護法の「テロリズム」の定義はあまりにも広過ぎる。
 で、「テロ特措法」というのがあったなあ、と思い出して、2001年11月に成立した、
『平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応
して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する
措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法』の条文を
確認してみた。

 第1条第1項には、「この法律は、平成13年9月11日にアメリカ合衆国において発生
したテロリストによる攻撃(以下「テロ攻撃」という。)が国際連合安全保障理事会
決議第1368号において国際の平和及び安全に対する脅威と認められたことを踏まえ、
あわせて、同理事会決議第1267号、第1269号、第1333号その他の同理事会決議が、
国際的なテロリズムの行為を非難し、国際連合のすべての加盟国に対しその防止等の
ために適切な措置をとることを求めていることにかんがみ、我が国が国際的なテロリズム
の防止及び根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため、次に掲げる
事項を定め、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的と
する。」とある。
 「テロ攻撃」は、2001年9月11日にアメリカで発生したテロリストによる攻撃を指して
いるだけ。
 第3条は定義規定になっているが、「テロリズム」の定義はない。

 秘密保護法は、警察による「テロリズム」の監視を法律上初めて正当化した。きっと、
暴走させることになるだろう。

 国民の代表であるはずの国会議員の圧倒的多数がこれを支持する心理が理解できない。