裁判官の守秘義務?
神戸市須磨区で1997年に起きた連続児童殺傷事件で、当時中学3年生の少年を医療少年院
送致にした神戸家裁の決定全文が、『文芸春秋』5月号に掲載された。
さっそく買って読んだ。事件の描写は全体のごく一部。少年の人格形成についての記述が圧倒
的に多い。18年の時間が経過しても、この事件を改めて理解するためにも、同様の問題の存
在を疑わせる事件が発生した場合の解明にも役立つだろう。
事件を深く理解し考えたいという人にはおススメだ。
これに対して、神戸家裁(岡原剛(たけし)所長)は10日、共同通信の編集委員と文芸春秋社に
決定文全文を渡したであろう井垣弁護士と、文芸春秋社、共同通信の編集委員にそれぞれ抗議
する申入書を送り、井垣弁護士については「裁判官が退職後も負う守秘義務に反する」と指摘し
たという。
神戸家裁はなぜ抗議文を出すことにしたのか。神戸家裁内の裁判官が集まって議論して決めた
のだろうか。そうではないだろう。最高裁の指図にしたがっただけではないか。少なくとも、最高
裁の意向が強く働いているにちがいない。
最高裁の意向があったかどうかは置いておいても、神戸家裁の井垣弁護士に対する抗議内容
には重大な疑問がある。
裁判官は国家公務員だが、国家公務員法上の守秘義務(100条1項)を負っていない。裁判
所法で規定している裁判官の守秘義務は合議体の裁判の評議についてだけで(75条2項)、
それも罰則規定はない。今回は合議体の評議でさえない。刑法134条の秘密漏示罪にも裁判
官は入っていない。
神戸家裁が言うところの裁判官の守秘義務の法的根拠はどこにあるのか。どこにもない。裁
判所が社会に向かってこんなことを言っていいのか。
どの新聞の記事にもこの指摘がない。
記者たちは裁判所に騙されたのか、わかっていて同調したのか。どちらでも問題だ。