またしても、警察官がけん銃自殺

毎年、数件、現職警察官がけん銃自殺をしている。
自殺で多いのは、交番勤務の若手警察官(巡査)か年配の警察官
(巡査部長)。


讀賣新聞のネットニュースによれば、
5月18日、福島県警では、いわき中央署の男性巡査長(26)が、
当直勤務中の17日未明から行方不明となり、18日午前中、いわき
市内の河川敷で遺体で発見された。
拳銃を握った状態で頭から血を流して死んでいたことから、拳銃を
使って自殺したとみられる。


制服警察官のけん銃自殺は明らかに不祥事だ。
クローズアップ現代』は自殺の原因をどう分析するだろうか?
できれば、番組の問題分析は正しかったことになる。できなければ、
正しくなかったということになる。


巡査長という階級は警察法には規定されていない。法律上は巡査だ。
巡査が長くなってしまった警察官に警察組織内の配慮として特別に与
える「階級」だ。男性警察官はそういう立場にいた。


交番勤務の警察官の仕事。
それは街頭活動。街中を徒歩や自転車で移動して、道行く人に「職務
質問」をして、些細な「事件」を検挙すること。自転車に乗っていると、
警察官がよく声を掛けて、「これ、あなたの自転車ですか?」と聞く
のは、盗難自転車ではないかと疑っているからで、盗難自転車なら窃盗
事件として検挙できるが、そうでないことの方が多い。そのときは、
さらに、「カバンの中を見せてもらえませんか?」と言って、カバンの
中から十徳ナイフ(サイバーツールなど)でも出て来てくれれば、
「刃物の所持は犯罪です」と言って、軽犯罪法1条2号違反で検挙する。
犯罪統計をみると、刑法犯では窃盗事件が多い。その実態は中高生の
自転車盗やバイク盗。特別法犯では軽犯罪法1条2号違反が最近、10
年くらいの流行だった。
迷惑防止条例違反や暴行事件などの摘発も多い。
この摘発をがんばっているのが、交番勤務の警察官や自動車警ら隊の警
察官。
事件の具体的内容を知ると、「え、こんなことが犯罪なの!」というもの
がやたらと多い。


要領のいい警察官は、どしどし摘発して上司の評価を得て、出世して行く。
しかし、中には、「まるで警察が犯罪者を作っているみたいだ」と、悩ん
でいる若い警察官もいる。
自殺した26歳の巡査長は、後者、強引なことができない優しい青年だった
のではないだろうか。


ただ、単に生きているのがイヤになって死ぬのだったら、職場に迷惑をかけ
ないように、休みの日に、自宅なり、旅先なりで自殺すればいい。


しかし、彼はそういう選択をしなかった。全く逆の選択をした。制服を着た
勤務時間中に職務上特別に貸与されているけん銃で、人(=自分)を殺した。
殺人だ。警察組織に迷惑をかけることは明らか過ぎるほど明らかだ。それを
あえて選択した。


なぜ?
警察組織の中では親身に相談し合える人間関係はない。上司の命令は絶対。
ノルマ、ノルマ、ノルマ。ノルマを果たせるか果たせないかで、評価がはっ
きりわかれる。成績の悪い警察官は、悩みの相談に乗ってもらえなかった
どころか、周囲の警察官らから陰に陽に「早く辞めろ」と言われる。それが
当たり前のいじめ社会。


「警察官を辞めます。けん銃自殺という方法で」。
自分を追い詰めた警察組織に対する抗議の思いが、この自殺には込められて
いるように思える。