「行政機関の長は」・・・に騙されるな!

憲法第41条の規定によれば、国会は国権の最高機関だ。
それが、いま、秘密保護法で覆ろうとしている。法律による改憲と言ってもよい。

たいていの法律の条文には、いろいろな主語が出て来る。いろいろな立場の人が
主体的に関わりあって制度ができていることがわかる。
ところが、秘密保護法の条文はちがう。「行政機関の長は」という主語が異常に
多い
のだ。初めてみたとき、このような法律の作り方に驚いた。ざっと、みてみよう。

行政機関の長は・・・特定秘密を指定する(第3条)。
行政機関の長は・・・秘密指定の有効期間を定める(第4条第1項)。
行政機関の長は・・・指定期間を延長する(第4条第2項)。
行政機関の長は・・・秘密指定期間が30年を超えるときは、内閣の承認を得な
ければならない(第4条第3項)。
行政機関の長は・・・秘密指定を解除する(第4条第4項)。
行政機関の長は・・・特定秘密を取り扱う職員の範囲を定める(第5条第1項)。
行政機関の長は・・・契約に基づいて、特定秘密を適合事業者に保有させること
ができる(第5条第4項)。
行政機関の長は・・・他の行政機関に特定秘密を提供することができる(第6条
第1項)。
行政機関の長は・・・適合事業者に特定秘密を提供することができる(第8条
第1項)。
行政機関の長は・・・外国政府又は国際機関に対して特定秘密を提供することが
できる(第9条)。
行政機関の長は・・・国会、裁判所、警察、検察、情報公開・個人情報情報保護
審査会に対して特定秘密を提供することができる(第10条)
行政機関の長は・・・職員、適合事業者の従業員に対して適性評価を実施する
(第12条)。
行政機関の長は・・・適性評価の結果を評価対象者に通知する(第13条)。
行政機関の長は・・・適性評価の結果に対する苦情処理の結果を申出者に通知する
(第14条)。
行政機関の長は・・・適性評価の実施で取得した個人情報を他の目的で利用しては
ならない(第16条)。
行政機関の長は・・・政令により、権限を職員に委任できる(第17条)。
行政機関の長は・・・特定秘密の指定、適性評価の実施等につき、相互に協力する
(第19条)。

警察庁長官は」で始まる条文も、同様の規定がある。

「行政機関の長」の典型は大臣。ということは、大臣の権限が極めて広く強くして
あるということなのだ・・・が、第17条をみると、「政令」でその権限を職員に委任
できる、とある。政令だから、国会が決めるのではない。行政機関である内閣が
決める。行政実務に精通していない大臣としては、委任することができる、ではなく、
委任するしかない。委任先の職員は官僚だ。
大臣に実際にできないことを大臣の権限と法律に規定し、大臣が官僚に委任できる
という構造にすることによって、官僚に実質的に権限が集中することになる。

防衛省の現状がまさにこれだ。
自衛隊法施行令と防衛秘密の保護に関する訓令によれば、防衛大臣が指名する防衛
秘密管理者とこれを補佐する防衛秘密管理者補(合計約40人)の立会いの下に防衛
秘密文書が作成され、当該事項を特定した書面によって防衛大臣に上申し、防衛大臣
が決定する。

では、防衛大臣はなにをみているのか。
上申するときの書式の項目は、番号、事項の内容、別表第4該当号数、指定の方法、
指定通報先となっている。
文書の保存期間も秘密指定期間も書かれていない。それは現場の方で判断する、と
いう意味だ。何を秘密にするかという問題は、どれほどの期間秘密指定するかという
問題と、一体不可分のはずだが、大臣は後者を判断していない。
「事項の内容」は項目的なことが抽象的に書かれているだけで、秘密情報そのもの
ではない。大臣は原文をみることができる立場にあるが、実際には大量の文書を1つ
1つチェックすることなどできない。
公明党自民党ヒアリングのときに、議員が大臣になったとき自省の秘密情報の
内容を直接みてチェックしたことがあるかと質問したら、だれもが無言だった。
官僚が秘密指定し、大臣は一覧表をみて「決定」するだけ。これがどの省庁でも
当たり前に行われているのではないか。これで、実質的に大臣が決定していることに
なるだろうか。

こうしてみると、秘密保護法は、これまで政令や訓令という内規で決めていたことを、
法律に格上げして、官僚の情報支配を磐石にしようとするもの
だということがわかる。

だからこそ、国民やマスコミだけでなく、国会議員も懲役5年以下の処罰をし、
過失による漏えいするという「鉄壁ぶり」にしてある。

これで、法案作成過程から官僚たちが与党議員さえ排除していた理由がよくわかった。
与党議員だけにでも知られてしまっていたら、マスコミ記者や弁護士などに対して疑問
を口にしてしまう議員が幾人も出て来たにちがいない。そうなれば、法案を国会に提出
するどころか、法案そのものが思いどおりに完成できない。内閣情報調査室(警察官僚
が中心にいる。)は、そうなることを防ぎ、公になったときには、一気に短期間に
法案を成立させてしまおうという魂胆のもとに、法案提出の時期をうかがっていたので
ある。

現在国会に出ている秘密保護法は、「国民+マスコミ+国会議員」VS「官僚」という
構図で考えるべき法律だ。国会議員の中にはまだ多くの賛成者がいるようだが、一体、
だれのために議員の仕事をしているのか。自ら国会の権威を失わせるような選択を
すべきではない。