なぜ、警察は行方不明者を家に帰してやることができなかったのか?

 4月27日の夜のNHKニュースに驚いた!

ニュースよると、
 NHKは今月19日のニュースで、無事保護されたものの認知症のため身元が分
からないまま施設で暮らす男性について、放送した。放送後の27日、家族が本人
と面会し、兵庫県内の74歳の男性と確認された。

 NHKニュースが橋渡しになって、男性はやっと家族に会えた。それはよかった。
 家族は警察に行方不明者としての届出をしていなかったのか?

ニュースによると、
 男性は一昨年の3月、大阪・西淀川区阪神電鉄・姫島駅前の路上で警察に保
護された。男性は保護される3日前に、姫島駅前から数キロほど離れた兵庫県
で病院から帰る途中に行方不明になり、家族はその日のうちに警察に届け出てい
た。

 すぐに届出はしていたのだ。

ニュースによると、
 しかし、男性は重度の認知症を患っていて、自分の名前や年齢、住所などを伝え
られず身元を確認できるものも持っていなかった。
大阪市は、生活保護の受給など
に必要だとして男性に「太郎」という仮の名前を付けたうえで、法律に基づく一時的
な保護措置として、市内の介護施設で2年間にわたって保護していた。
 警察は、全国の警察に出されている行方不明者の届け出との照合もしたが身元
の特定につながる手がかりは得られなかった。

 行方不明者発見活動に関する規則(平成21年12月11日国家公安委員会規則
第13号)という規則がある。これには、行方不明者届の受理時の措置について次
のように規定している。

 「警察署長は、行方不明者届を受理したときは、当該行方不明者届をした者(以
下「届出人」という。)から次に掲げる事項について聴取するとともに、行方不
明者を撮影した写真その他の行方不明者発見活動を適切に実施するために必要
と 認められる資料の提出を求めるものとする。」(7条1項)

 「次に掲げる事項」とは以下のものである。
 一  行方不明者の氏名、住所、年齢、性別、身体の特徴その他の行方不明者
  の特定に必要な事項
 二  行方不明者が行方不明となった日時、場所及びその状況
 三  行方不明となった原因、動機その他の特異行方不明者に該当するかどう
  かの判定に必要な事項
 四  行方不明者の発見時の措置に関する届出人の意思
 五  届出人の連絡先
 六  前各号に掲げるもののほか、行方不明者発見活動に必要な事項

 これらと顔写真や姿写真が行方不明者を探すためのデータになっている。これら
の情報を男性が行方不明になった地域、周辺の警察署で共有すれば、すぐに見つ
かるはずだ。

 それがそうならなかったのは、なぜか?

ニュースによると、
 警察は、男性の名前や住所、生年月日、それに身長や身体的特徴などを家族か
ら聞き取り、この情報は全国の警察のオンラインシステムで共有していた。しかし、
家族から提供を受けた顔写真や行方不明になった当時の服装などの情報は、オン
ラインシステムに登録する仕組みにはなっておらず、兵庫県警の内部だけで共有
されていた。

 何だ、これは!
 行方不明者の中には自分の名前も住所も言えない認知症の人もいることは、わ
かりきったことだ。だからこそ、そういう人でも早く見つけられるように、顔写真や姿
写真を共有化するのではないのか。
 
 この点に関連して、行方不明者発見活動に関する規則では、行方不明者に係る
事項の報告について次のように規定している。
 「警察署長は、行方不明者届を受理したときは、速やかに、行方不明者の氏名、
 住所その他警察庁長官が定める事項を、警視庁、道府県警察本部又は方面本部
 (以下「警察本部」という。)の行方不明者発見活動を主管する課の長(以下「行方
不明者発見活動主管課長」という。)を通じて、警察本部長に報告しなければならな
い。 」(8条1項)

 「行方不明者の氏名、住所その他警察庁長官が定める事項」が警察本部長に報
告される。そして、

 「行方不明者発見活動主管課長は、前項の規定により報告を受けたときは、速や
かに、当該事項を警察庁生活安全局生活安全企画課長(以下「警察庁生活安全企
画課長」という。)に報告しなければならない。 」(2項)

 「前項の規定により報告を受けたとき」だから、「行方不明者の氏名、住所その他
警察庁長官が定める事項」が警察庁生活安全局生活安全企画課長に報告され、

 「警察庁生活安全企画課長は、前項の規定により報告を受けたときは、当該事
 項に係る記録を整理し、及び保管しなければならない。」(3項)

 「行方不明者の氏名、住所その他警察庁長官が定める事項」に顔写真や姿写真
が含まれていないとすれば、これらの情報は警察官の間で共有化されないという
ことだ。

ニュースによると、
 一方、男性を保護した大阪府警察本部は、オンラインシステムを使って行方不明
者の届け出と照合したが、名前や住所が分からず、システムでは当時の服装など
の情報も得られなかったため、身元は特定できなかった。

 「行方不明者の氏名、住所その他警察庁長官が定める事項」に顔写真や姿写真
が含まれていないらしい。なんとばかばかしいことか。なんというお役所仕事ぶり。

ニュースによると、
 大阪府警は、男性の写真や当時の服装などを記載した文書を今月を含む2回に
わたって全国の警察本部に送り、行方不明者の届け出が出ていないか確認するよ
う求めていたが、この文書は兵庫県警察本部で保管され、家族から届け出を受け
た警察署には送られていなかった。

 折角、検索システムを作ったのなら、そこを検索しさえすれば必要な基礎情報(氏
名、住所、生年月日、顔写真、姿写真)が簡単に閲覧できるようにしておくべきだ。

 こんな当たり前のことに全国の警察官が気づかなかったのか。気付いても言い出
せるような組織ではないということなのか。どちらにしても改善すべき問題があるこ
とは明らかだ。