新聞各紙の報道と、諮問会議のこれから

 今朝、情報保全諮問会議の記事を見比べたら、新聞6紙の報道に驚くほどのばらつきがあった。
こういうときこそ、わたしたち国民は全新聞を買い込むなり、図書館に行くなりして、比較して読むと
いい。そうすると、それぞれの会社(新聞社だって営利を目的とした一企業である。)の秘密保護法
制に対する姿勢の違いがはっきりわかる。

 扱っているページ数の多さは東京新聞が群を抜いている。
 以下、毎日、朝日、産経、讀賣の順で少なくなり、日経はほとんど発表モノ。
 少ない方は、会社としての関心も低いし、読者に対して、「特に関心を持つ必要はないからね」と
言っているのだ。
 適性評価制度は、民間企業とその従業員や下請企業などに重大な影響を与えるのに、日経は情
報量が少ない上に、適性評価制度に一言も言及していない。適性評価制度の運用の適正化のため
にも一言言うべきではないのか。

 産経の記事の量は朝日とほぼ同量。
 だが、産経は、昨日と同じく、渡辺恒雄氏が「直接秘密保護法には関係ないが」と言い添えた部分
に紙面を割いている。これは、情報保全諮問会議の報道になっていない。

 識者のコメントを載せているのは、毎日、朝日、東京の三紙。
 毎日新聞は、富田三樹生・多摩あおば病院院長、三木由希子・情報公開クリアリングハウス理事
長、瀬畑源・長野県短大助教朝日新聞は、田島泰彦・上智大教授、東京新聞は、海渡雄一弁護士
とわたし。

 田島教授は「本質的な変更になっていない」、海渡弁護士は「特定秘密保護法の根本的な問題は
何ら改善されていない」と批判する。そのとおりだ。しかし、それは、今回のパブコメは、運用基準や
施行令についてのものだから当たり前なのだ。パブコメの結果をみるまでもなくどころか、するまで
もなくできるコメントだ。この枠の中で何をすべきだったのか、なにができたかを問わなければならな
いのだ。

 富田院長の意見にはまったく同感だ。
 富田院長は「適性評価項目に「精神疾患」「飲酒の節度」が入っていることに医学的根拠がない」
と指摘している。過去の漏えい事件からすれば、漏えいできてしまった情報管理環境にこそ問題が
あったのだ。冨田院長に意見は、図らずも、わたしの指摘と同じ内容になっている。情報漏えいは
情報管理ルールとその運用の適正化で対処すべき問題だ。なぜ漏えいできてしまったかという個
人的事情以外の部分こそ着目すべきだ。個人の特殊事情に囚われすぎるほど、情報漏えいは防
げない。

 瀬畑助教の意見は「通報が所属先の行政機関だけでなく、独立公文書管理監に直接通報できる
ようにすることを提案したが、修正に反映されなかった」というものだが、これだったら、運用基準(
案)には反映されている。独立公文書管理監への通報が例外的な場合と規定されているところを、
実際の運用でどこまで柔軟に行なえるかが課題であり、この点はわたしもいろいろ意見を出してい
る。

 三木理事長は「修正は形式的だ」と怒っている。三木理事長の意見は情報公開クリアリングハウ
スのHPに出ているので、ぜひ、読んで頂きたい。ご指摘はいちいちごもっとも。たとえば、以下の
点などは実際の運用において反映されるべきだ。

 「特定秘密については、その情報を複製、引用、概要などにより利用した派生的に作成される情
報も考えられる。これらについての特定秘密としての取扱い、指定について、どのように取り扱うの
か、あるいは管理をするのかについても基準で定めるべきである。」

 「指定理由の中で明らかにするとされている、「災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を
保護する観点からの公表の必要性」については、指定管理簿に記載するだけでなく、当該文書の
解除の条件として当該文書そのものに記載をするものとすべきである。」

 運用基準(案)に取り入れられなかったこと、イコール、無視ではない。
 三木理事長の上記のような意見は、運用基準(案)に即反映しなかったとしても、実務的には
無視できない重要な指摘である。

 運用基準は、事務局の当初案では、「5年後に見直す」とあった。それを諮問会議の意見で「必
要があると認めるときは」
を入れさせた。昨日の諮問会議の場でも、わたしはこの点を確認した。
他のメンバーも同感だった。だれがどのように「必要」の有無を判断するかという問題はあるが。

 情報保全諮問会議事務局の官僚の方々と意見交換、議論を重ね、彼らは本当によく考えている、
とても優秀だと思った。そして、各省庁の官僚群との駆け引きが背景にあるだけに、かなり頑固だ。
そのことも含めて、とても勉強になった。なっている。

 秘密保護法の規定によれば、諮問会議はこれで向こう1年間閉店になる。

 しかし、これまでもそうだったが、重要なのは表立った諮問会議ではなく、諮問会議のメンバーと
して意見を出し、事務局がこれに対応し、実務に反映させていくことだ。
 例えば、国の行政機関と民間企業との間で取り交わされる契約のひな型を諮問会議では検討し
ていない。これは、秘密保護法の運用基準に適合している必要があるので、諮問会議のメンバー
としては意見を言う必要がある。
 施行直後にはいろいろ細かい問題、細かくない問題が起こるだろう。それが新しい問題であれば、
それへの対処を考える必要がある。

 表舞台はないが、諮問会議の仕事はこれからも続く。