天満敦子さんと小田原市民会館大ホール

 一昨日、知人に誘われて、小田原市民会館大ホールに、天満敦子さんのヴァイオリンを聴きに
行った。行ってよかった。

 舞台中央まで、ヴァイオリンをぶら下げて、ぶっきら棒に歩いて来る。ここから、すでに、ふつう
演奏家とちがう、というか、違いすぎる。

 彼女の演奏中、客席だけでなく、(演奏曲によって)壇上もほぼ明かりなし。彼女のヴァイオリン
の音色だけがホール内に響きわたる。音色と演奏が変化に富んでいて、作品の楽しさが圧倒的
な優しさになって伝わって来る。圧倒的なのに、威圧感はない。シューマンピアノ五重奏曲変ホ
長調Op.44では、冒頭、天満さんが「途中から外れるかも」と言っていたが、他の奏者は承知して
いて、予告どおり、途中から彼女が立ち上がって独走、暴走気味になっても、五重奏曲に仕立て
上げている。それがまたおもしろい。
 ストラディヴァリウス晩年の作のヴァイオリンと、ウージェーヌ・イザイ遺愛の名弓は、それはそれ
ですごいのだろうが、それを生かしているのは天満さんだ。こんな演奏は彼女しかできない。

 初めての人でもすごく親近感を感じさせてしまう、ドラえもんのようなしゃべりと体型(おっと、失
礼)。

 楽しそうに話す天満さんが1つだけ愚痴を言った。「3回、ここに来た。1回目のときは、市長さん
が「今度来たときには新しくなっています」。2回目のときは、「え、新しくなっていないの」。3回目
の今回は「いつになったら」と思う」。
 天満さんにしてみれば音響のいいホールで、いい音色で聴いてほしいのだ。それが、小田原市
民会館は昭和38年に建った、耐震上も問題がありそうな古〜い建物。一流の演奏家でなくたっ
て何とかしてほしいと思う。わたしも、一昨日、初めて来て、ホールの横の通りを歩きながら、建
物を観て、古い倉庫かと思った。あまりの古さに驚いた。デザインなどあったものではない。

 地元の人の話だと、いま、新しいホールの実施設計が進んでいるそうだから、天満さんが数年
後に来るときには新しいホールになっているのだろう。それはよかった、と思ったら、市民のいろ
いろな声を受け容れた設計になっているとかで、クラシック音楽を演奏するホールはいまよりも小
さくなるらしい。響はいいものになるだろうか。いまの舞台裏は使い勝手が悪そうだが、よくなるだ
ろうか。

 天満さんが次に来ることがあれば、そのとき率直に意見を言うだろう。「また、来たい」「もう、来
ない」。