朝日新聞出版は内部告発をどう受け止めたか?

 週刊文春(2014.9.25号)が、朝日新聞社の子会社、朝日新聞出版の不正競争防止法違反
問題を取り上げている。

 親しい記者は、わたしが週刊文春の記事の話をすると、「そろそろ落ち着いた議論をする時期
ではないか」と言ってきたので、「わたしはそろそろ火消しではなく、燃えるときはしっかり燃えた
方がいい、完全燃焼がいいと思う。」と反論した。

 朝日新聞出版が同業他社(デアゴ社)の重要書類を無断で利用していたという事件だ。
 デアゴ社側は、朝日新聞出版に利用されていたことを知らなかった、しかも、「重要書類ばか
り」だという。他方、朝日新聞社側は、昨秋、社内で内部告発があり、社長をトップとするコンプ
ライアンス委員会で取り上げていた。
 内部告発があったのは10項目。コンプライアンス委員会が問題にしたのは、そのうちの1項
目だけで、注意レベルの軽い処分で終わらせている、という。この限度で、朝日新聞社からデア
ゴ社に対して説明がなされているのだろう。

 記事には、コンプライアンス委員会の社外委員のひとりは、「相手方(デアゴ社)にはきちんと
説明をして納得されたと聞いています」とあるが、記事の冒頭のデアゴ社の社長の驚きぶりか
らすると、重要書類の無断利用については、朝日新聞社からデアゴ社に伝えられていたとは考
えられない。

 社外委員には弁護士もいる。内部告発の10項目をみれば、不正競争防止法違反の問題があ
ることに気づいたはずだ。記事からすると、内部告発者がこの点を問題にしていたことは明らか
だ。だれも気づかないなどということがあるはずがない。

 しかし、朝日新聞社内部告発を黙殺した。
 不正競争防止法違反という犯罪が起こっているのに、これに沈黙し、莫大な損害賠償責任を
免れているのかもしれない。

 朝日新聞社が「不正競争防止法違反の問題がない」と自負するのであれば、この点について
も、デアゴ社への説明の際についでに説明し、「問題ないですよね」と確認しておくべきだった。
アゴ社の社長の驚きぶりからすると、「問題ない」という返事になったとは思えないが。それで
も、そのとき話し合いで解決しておけば、いま、週刊文春にこんなに大きく取り上げられることは
なかった。
 朝日新聞社はこれをどう処理するのか。

 内部告発された人、した人についてはどうか。
 朝日新聞社は、不正競争防止法違反行為をした可能性のあるK氏を昇格させている。これをど
うするのか。
 内部告発した人は、内部告発後、どういう待遇を受けているか。K氏が社内で積極的に評価さ
れているということは、K氏とは逆に、職場で冷遇されているのではないか。これをどうするのか。

 内部告発は常に正しいとはかぎらない。しかし、組織としては、内部告発をすることを積極的
に評価すること、内部告発者を保護することを明確にしておく必要がある。内部告発者を冷遇す
れば、同じ人が以後内部告発をしなくなるだけでなく、だれも内部告発をしなくなる。内部告発
がないことに組織のトップが安住しているときに、実は組織全体が腐敗しているかもしれないの
だ。

 わたしが関わっている情報保全諮問会議では、特定秘密秘密保護法に規定されていない内部
通報を運用基準(案)の中に盛り込んで、「通報者の保護等」という項で、次のように書いた。

 「行政機関の長は、当該行政機関の職員が、通報者に対し、通報をしたことを理由として不利
益な取扱いをすることのないよう適切な措置を講じなければならない。」
 「行政機関の長は、通報者に対し、通報をしたことを理由として懲戒処分その他不利益な取扱
い等を行った職員があるときは、当該不利益な取扱い等を取り消し、又は是正するとともに、当
該職員に対し、懲戒処分その他適切な措置を講ずるものとする。」

 朝日新聞社は内部通報についてのこのような考え方にも反対なのだろうか。
 朝日新聞社内部告発した人をどのように扱ってきたか、これからどのように扱うのか。不正
行為をした人、これに加担した人たちをどのように扱うのか。この問題に対する朝日新聞社の態
度で、この問題に対する朝日新聞社の真剣度がはっきりわかる。
 朝日新聞社は、これからの信用回復のために、中途半端な幕引きをしてはいけない。