愛国者はだれか?

 この連休中に、佐藤優氏推薦の「スノーデンファイル」(日経BP)を読んだ。インターネット上の
個人情報がどういう状態に置かれているのかを考える上で、とても参考になった。

 本書は、NSA(米国国家安全保障局)が事実上、全世界のインターネットや携帯電話の利用者
の情報を盗み取るシステムを持っている
ことを明らかにしている。
 米国の本当の仲間は唯一、英国だけ。インターネット上の個人情報の収集に関する、NSAと英
国GCHQ(英国政府通信本部)の連携は、まるで頼もしい兄貴分と、「兄貴の言うことなら何でも」
と従う弟みたいな関係。世界最強だ。

 米国(+英国)(オバマ大統領)はEUの国々を仲間だとは思っていない。監視の対象にしている。
 携帯電話をずっと盗聴されていた、ドイツのメルケル首相が他の国の首相よりNSAの盗聴につ
いて激しく怒っている理由も、ドイツの歴史と彼女の過去からすればよくわかる。

 米国でも英国でもNSA,GCHQの暴走を議会は止めることができない。それどころか、どちらの
国の議会もスノーデンこそが国家の敵だとみなす。

 言論の自由憲法で保障された米国のメディアを信じていなかったスノーデンは、情報提供先と
して米国のメディアを選ばず、憲法もない言論の自由の保障のない英国の「ガーディアン」を選ん
だ。

 「ガーディアン」は内容を知ってやる気満々になったが、自力だけでは、スノーデンから預かった
資料を守り、報道することができないと判断した。そして、米国の「ニューヨーク・タイムズ」の協力
を得ることにした。「ニューヨーク・タイムズ」はこれに応じることにした。新聞社同士が米英で連携
して、スノーデンの内部告発が世界に発信された。

 「ガーディアン」は、当たり前のことだが、英国社会がどういう反応を示すかを承知していた。「ガ
ーディアン」は政府側の意見も聞きながら(言いなりになるという意味ではない!)、スノーデンか
ら受け取った資料のごく一部を記事にしていた。予想どおり、英国のマスコミ界からも一般の人々、
国会議員からもバッシングされ孤立した。それでも、「ガーディアン」は沈黙しなかった。

 スノーデン、「ガーディアン」、「ニューヨーク・タイムズ」が問題にしたのは、NSAとGCHQによる、
民間企業(ヤフー(2008年3月〜)、グーグル(2009年1月〜)、フェイスブック(同年6月〜)、パ
トーク(同年12月〜)、ユーチューブ(2010年9月〜)、スカイプ(2011年2月〜)、AOL(同年
3月〜)、アップルは最後まで抵抗してジョブズが亡くなった1年後の2012年10月から))を利用し
た、明らかに逸脱した個人情報の収集の実態だった。だれにもプライバシーのない世界!

 政府は、「ガーディアン」を「国家を窮地に陥れた」と非難するが、本当だろうか? 具体的にどう
いうことか? 単に、政府にとって国民や世界中の人々に知られたくない事実が明らかになっただ
けのことではないか。

 オバマ大統領は、それでもこの情報収集を止めようとしない。「テロ対策」なんだそうだ。しかし、
実際にはテロ対策に役立ったという実績は証明されていない。
それでも延々と続ける個人情報の
収集は何のため? だれのため?

 2013年12月、英国下院内務特別委員会は、「ガーディアン」の編集長ラスブリッジャーを召喚
し、議長(労働党議員)が冒頭に質問した。
 「あなたはこの国を愛していますか?」 この魔女狩り的な質問に、ラスブリッジャーは次のように答えた。
 「はい。私たちは愛国者です。何に愛を感じるかといえば、その1つが民主主義であり、報道の
自由であります」