エイズ感染知りながら強姦、懲役23年

 HIV感染者が5人の女性を強姦し、横浜地方裁判所で、懲役23年(求刑懲役
30年)の有罪、実刑判決を受けた。

 いまどき、こんな人がいるのか?
 驚いた。

 朝日新聞デジタル(11月15日(土)16時11分配信)によると、判決は、「犯人
HIVに感染していたことを知り、被害者らがどれほどの恐怖と不安を感じた
か。HIV感染で自暴自棄になり、鬱憤(うっぷん)晴らしとともに性欲を満たそう
と犯行に及んだことは、動機にくむべきものはない」
と指摘したとのことだ。

 まず、裁判所がHIV感染症についてどれほど理解しているかがよくわからない。
 判決は、「犯人がHIVに感染していたことを知り、被害者らがどれほどの恐怖と
不安を感じたか。」と、被害者の恐怖と不安を指摘している。しかし、HIV感染症
性感染症ではあるものの、1回でも性交渉をすれば必ず感染するというもので
はない。
 薬害エイズ事件の原告の血友病患者たちは、HIVに汚染されていた非加熱濃
血液製剤の投与を受けてHIV感染しても、すぐにはそのことに気づかなかった。
感染から数年以上経過してHIV抗体検査を受け陽性反応が出て初めて自分の
感染を知ったのである。
だから、それまで感染を知らずに妻や親しい女性と性交
渉をしていた。しかし、そこで感染したのはごく一部の人だけだった。最近、有名
になったエボラ出血熱に比べると、HIV感染症は遥かに感染の危険性が低い。
 だから無防備でよい、ということでは、もちろんないが、過剰に恐怖心を抱くべ
きでもない。
それは深刻な差別を生むだけだ。

 被害女性がそういう恐怖心を抱いたとすれば、それもHIV感染症に対する無知
無理解の要素を含んでいるかもしれない。
 
 判決は、「HIV感染で自暴自棄になり」と認定したようだが、本当にそうだろうか。
いまどき、HIV感染症の治療は著しく進化し、慢性疾患になっている。だから、
治療法がほとんどなかった1990年代とちがって、自暴自棄になる必要はまった
くない。
むしろ、暴走の原因は本当にHIV感染なのかと疑いさえ抱く。

 被告人は本当にHIV感染で自暴自棄になったのだろうか。被告人を取り調べた
警察、検察の早とちりではないだろうか。
 被告人は、HIV抗体陽性である(感染している)ことの告知を受けたとき、HI
V感染症についてどのような説明を受けたのだろうか。現在の免疫状態につい
てどのような説明を受けたのだろうか。発症予防の治療についてどのような説明
を受け、どこの病院に行くように説明を受けたのだろうか。

 これらがふつうにまともに実行されていれば、被告人は自暴自棄にならなかった
にちがいない。

 被告人を自暴自棄にした責任は、被告人に対してHIV抗体検査をしておきな
がら感染告知をまともに実施しなかった保健所か医療機関にある。

 被告人がしたことはひどい。
 しかし、こういう事件について、被告人を重く処罰すればいいという発想だけで臨
むと、本当の解決に向かわない。

 裁判所は、被告人にまともな感染告知が行なわれなかった(かもしれない)ことに
問題があるという言及をしただろうか。同様の事件が起こってほしくないと考えるの
なら、どうすれば被告人を自暴自棄にしないようにできたか、という問題意識を持
って判決を書くべきだ。