公文書管理監 検事起用で大丈夫か?

 信濃毎日新聞(11月18日)が社説で、≪秘密法を追う 公文書管理監
検事起用で大丈夫か≫と問いかけている。

 来月10日から施行される特定秘密保護法の運用チェック機関の一つ、
独立公文書管理監に検事を任命する方向で政府が最終調整に入った
ことから、≪官僚による特定秘密の指定を官僚である検察官経験者が
チェックする形になる。「独立」とは名ばかりの仕組みになる。≫と批判
している。

 防衛省や外務省から出る可能性もなくはなかったが、警察官僚が就く
可能性が最も高いだろうと考えていただけに、検察官出身者はちょっと
意外だった。

 社説では、
 ≪安倍晋三内閣は政府機関の要所に検事を起用している。5月に内閣
法制局長官に起用した横畠裕介氏も検事の出身だ。≫
 なるほど。

 しかし、社説で、
 ≪検察官は政治からの独立を確保するために身分が保障されている。
辞めさせるには検察官適格審査会などのハードルをクリアしなければな
らない。≫
 とあるのは、ちがうと思う。

 検察庁法第4条では、「検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所
に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の
権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判
所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令
がその権限に属させた事務を行う。」と規定している。

 検察官の独立性は検察官として上記権限を行使することに関してであ
って、検察官を辞めて他の職に就いたり、法務省の職員として他の省庁
に出向した場合には、このような権限もなければ独立性もない。

 それに、検察官は実際の事件処理では組織内でちっとも独立していな
いし、組織外でも警察組織との関係では警察に完全に従属している。ど
こにも独立性はない。

 こういう場面で検察官出身者を使うのは、都道府県の人事委員会で審
理長に検察官出身の弁護士を選ぶのに似ている。
弁護士という肩書は在
野(一般市民)寄りを思わせるが、実際の価値観は権力組織防衛に偏り
がちだ。

 わたしの弁護士としての経験では、群馬県愛媛県高知県、神奈川県
の人事委員会に、警察官の人事に関して不服申立てをしたことがある。
申立が認められたのは愛媛県高知県、認められなかったのは群馬県
神奈川県。勝った県の人事委員会の審理長は根っからの弁護士、負けた
県の人事委員会の審理長はいずれも元検察官の弁護士。
もちろん事案は
それぞれ違うのだが、負けた理由がひどかった。群馬県では、県警本部が
特に主張していないため争点にならなかった事実を認定して警察官を負け
させた。神奈川県では、ただ単に県警本部の主張をそのまま認定している
だけで、警察官側が指摘した事実や証人尋問の結果はどこへ行ってしまっ
たんだといいたくなるくらい、一切言及しない。警察組織を守るためにここ
までやるか、という感じだ。しかし、行政組織にとってはそういう守護神が
望ましいのだろう。

 社説や記事で、独立公文書管理監に検事を任命する方向で政府が最
終調整に入ったことの問題性を指摘するものがほとんどないのはどうし
たことだろう。マスコミの沈黙は、国民に「問題なし」という意識を植え付
けてしまうというのに。

 ただ、社説が
 ≪もともと実効性が危ぶまれている機関である。公務員の起用は疑問
をさらに募らせる。政府が独立性を言うのなら、せめて外部の第三者
起用すべきだ。≫
としているのは、同感と言いたいところだが、「外部の第三者」とはだれか、
あるいはどのような人かというところまで絞り込まないと現実味がない。

 秘匿性の高い行政情報の管理について現実的に対応できる人となると、
「外部」にもごくわずかな人しかいない。それは、秘匿性の高い行政情報
を実際に扱ったことのある人たち、すなわち、官僚OBだ。リアルな政治の
中で現職の官僚集団を的確にコントロールできなければならない。外国政
府(関係者)の考えや動きも読めなければならない。それでも、彼らが絶
対に判断を間違わないという保障はないのだが。

 そういうむずかしい問題だからこそ、「だれかスーパーヒーローがいて
くれればその人に委ねる」ではなく、
重層的にさまざまな仕組みをつくって
実際に暴走が起こらないよう、それぞれが機能するようにすることが重要
なのだ。

 社説
 ≪運用チェック機関の一つ、内閣保全監視委員会は各省の次官級で構
成される。管理監と同様、身内のチェックの域を出ない。≫

 これまで情報管理について完全な縦割り状態だったものが、省庁間で
議論するようになるだけでも意味があることだと思う。

 社説
 ≪衆参両院に設けられる情報監視審査会も秘密を解除させる権限は持
っていない。そもそも何十万件にも上る特定秘密を情報の素人である国
会議員がチェックできるとは考えにくい。≫

 そもそも国会の情報監視審査会にそんなことは期待されていない。骨
抜きだった国政調査権をいくらかでも強化することこそが狙いであり、
そのためにはないよりあった方がいいのではないか。
 それよりも、12月10日に特定秘密保護法が施行されるというのに、
この時期に衆議院を解散して総選挙をするというのは、どういうことだ。
衆議院に監視組織がない状態でスタートさせるというのは、異常だ。国
会の監視機能の将来は暗い。

 社説
 ≪有識者の情報保全諮問会議は年に1回、法の運用について政府か
ら報告を受け意見を述べるだけだ。≫

 「だけ」。確かにそのとおりだ。しかし、だからと言って無意味かどうか
は実際にどのような運用になるかをみてみないとわからない。

 社説の結論
 ≪これまでのところ秘密法のチェック機関はどれ一つとして実効性が
期待できるものはない。政府が恣意(しい)的に運用する心配がぬぐえ
ない。施行は見送るべきだ。≫

 そういう選択肢もある。