週刊誌VS記者クラブ

デイリー新潮 12月21日(月)8時10分配信
≪ほんの些細な出来事だと思っていたら、後で大きな事態になることを「バタフライ効果」と呼
ぶ。朝日新聞の記者が資料をポイ捨てしたことが思わぬ波紋を呼んでいる。ただでさえ安倍
政権としっくりいっていない「朝日」に、他のマスコミからも冷たい視線が。≫

という書き出し。
朝日新聞が嫌いな新潮系ということを念頭に置いて読むことにして・・・

≪喫茶店に捨てられた資料の中に総理の外遊中のスケジュール表があったことを本誌(「週
刊新潮」)が報じたのは先週(12月10日号)のことである。出所は朝日新聞の官邸担当のサ
ブキャップだった。≫

出所は朝日新聞の官邸担当のサブキャップだったって、朝日新聞に対する反逆?
それはともかく、その総理の外遊中のスケジュール表はどれほどのことが書かれていたのだ
ろうか。
週刊新潮の先週号には書かれていたのだろうか。

≪「それが大変な騒ぎになったのです」とは全国紙の政治部記者。≫

どういうこと?

≪「事態を知った総理官邸と外務省が激怒し、12月4日に内閣記者会と霞クラブ(外務省記
者会)の幹事役の6社(幹事社)が官邸に呼び出されたのです。待ち構えていたのは、外務省
の報道課長や官邸の報道室長らでした」≫

激怒?どういうこと?

≪この場で、外務省と官邸は、「セキュリティ上、大きな危機感を持っている」と猛抗議、11日
に予定されている安倍総理のインド訪問から“資料の配布や中身について変更があるかも知
れない。検討してほしい”と両クラブに申し入れたのである。≫

「セキュリティ上、大きな危機感を持っている」とはどういうことだろう。セキュリティ上、大きな
危機感を持つような情報なのか。そういう情報が含まれているということなのか。そうだとす
れば、配付する側は配付するときにそのことを説明したか。説明していたのなら、なぜ、朝日
新聞の記者は捨てたのか。説明していないのなら、セキュリティの点ではそれほどの情報で
はないはず。激怒するのはお門違いだ。

≪「具体的に政府側が示してきたのは、事前に行うマスコミ向けブリーフィングを二部制にして、
外遊に同行する記者だけに詳しい日程を教えるといったものや、政府専用機の中で日程表を
配るという案。さらには総理の外遊の場合は、時間と場所を日程表に記さないなどの対策を考
えていることが伝えられました。我々の対応によっては、スケジュールを教えてもらえない可能
性もあったのです」(同)≫

こういう分類を政府の側から突きつけられて、「さあ、どうする?」と言われてしまう記者クラブ
(の記者)って一体なんなんだ。
「今回の情報はセキュリティ上、大きな危機感を持つような情報だったのですか。具体的に
説明してください。セキュリティ上大きな危機感を持つような情報を記者レクに出すときには、
ちゃんとそう言ってください。そうすればどの社もいつも以上に慎重に扱います」と議論を持
ちかけた記者はいなかったのか。

≪この申し入れを受けて、12月7日、国会記者会館に幹事社が集まった。≫

どうも議論を持ちかけた記者はいなったらしい。

≪「冒頭でまず、朝日の官邸キャップから“申し訳ございませんでした”と謝罪がありました。し
かし、捨てた記者に聞いても“どんな資料を捨てたのか記憶がない”と言うばかりだったそうで
す」(同)≫

なぜ謝罪するのか。
セキュリティ上、大きな危機感を持つような情報であることの説明を政府側はしていたのか。
記事にはこの点の説明がない。この点を抜きにして、朝日新聞の官邸キャップが謝罪したと
書いたところで、それって、謝罪すべきことだったのか?という疑問が残る。

≪もちろん、収まらないのは、とばっちりを食いそうな他のマスコミである。≫

収まらない、って朝日新聞との関係で、か?
向く方向がちがってないか?

≪「“うちは首相と同行取材がない。日程を教えてもらえないと記事も書けない”とまくしたてた
社があるかと思えば、連帯責任を取らされるのはおかしいという声もあった。すったもんだの末
に、情報管理を徹底する旨、一筆入れ、今までどおりスケジュールを教えてもらうことで決着し
たのです」(同)≫

これが本当にあった発言だとすると、何とも情けない話だ。
こういう愚痴をみていると、かつて、北海道新聞の記者たちが北海道警の捜査費裏金追及を
していたとき、「道新はまるで週刊誌だ」などと言って北海道新聞をけなして北海道警に擦り
寄っていった記者たちがいたことを思い出す。
情報源に迫ることと、情報源に擦り寄ることは、似ているようで全く別物だ。

≪一連の顛末を元外務官僚で立命館大学客員教授の宮家邦彦氏に聞くと、「外遊のスケジュ
ールが事前にネットに漏れたりすると、相手国が準備するセキュリティにも影響が出かねませ
ん。こういうこと(ポイ捨て)が一回でも起きると疑心暗鬼になってしまいますよね」≫

「外遊のスケジュールが事前にネットに漏れたりすると、相手国が準備するセキュリティにも影
響が出かねません」て、本当だろうか。そういうこともあるだろうが、外遊先の情勢によっていろ
いろなのではないか。外遊のスケジュールを事前に公表することで、世界に政治姿勢を示すこ
とになることだってあるはずだ。
こんな抽象論に惑わされて実際の取材報道が自制してはならない。
外遊スケジュールはどんな内容でも秘匿性が高いと考えるのは間違いだ。そういう考え方を
推し進めると、どういう情報をどういうタイミングで出すかは、常に政府が判断すること、とな
ってしまい、政府広報のほかに民間の報道の存在する価値がなくなってしまう。

≪そこで朝日に聞くと、「取材で得た情報の管理と、重要な書類を廃棄する場合は細断したり、
溶解処理するように改めて徹底しました。ご迷惑をおかけした関係者のみなさまに深くおわび
するとともに、同じことを繰り返さないための対応をとっていきます」(広報部)≫

取材で得た情報はだれからのものであれ、適正に管理する必要がある。その目的は、結局
のところ、国民の知る権利に奉仕するためであって、単なる企業の防衛対策ではない。

≪また、安倍政権に“借り”を作ってしまった同紙、ポイ捨ての代償は小さくなかった。≫

記者クラブが週刊誌記事に振り回され、あたふたしている感じになっている。朝日新聞が反省
し、記者クラブが一丸となって内部規制を強める。週刊新潮はそれが望ましい方向だと考えて
いるのだろうか。
考えるべきは朝日新聞の対応だけではない。