田代まさしさんがNHKに出演の衝撃?

清原和博さんが逮捕された翌日(2月3日)のNHKニュースウオッチ9に元タレントの
田代まさしさんがインタビュー出演し、薬物依存の恐ろしさを経験者として話していた。

薬物の影響については、どんな優秀な学者や研究者や法律家などが如何にも“有益
な話”をするより、有名人でも無名人でも体験者が外に向かって話すことがいちばん
説得力がある。

田代さんは、覚醒剤などの薬物関連で幾度も逮捕され、一昨年の夏に刑務所を仮出
獄したあと、薬物依存者がつくる更生施設「日本ダルク本部」の職員として働くように
なった。

わたしは、薬物依存の人たちとその家族や支援者の集まりに支援者のひとりとして参
加したときに、仮出獄して間もない田代さんに会った。たくさんの薬物依存症の人たち
が前に出て自分の体験談を話したとき、田代さんも自分の体験談を話していた。だれ
の体験談も、具体的に聞けば聞くほど悲惨なのだけれど、だれの話でも幾度も会場か
ら爆笑が起こるほどアホらしいのである。体験者同士だけでなく、家族も支援者も一緒
に共感の笑いをしてしまうのだ。

田代さんは「いまだにやりたいという瞬間が訪れてしまうのがクスリの魔力」と言ってい
るが、これはあらゆる依存症の症状であって、別に珍しくもないし、驚くことでもない。
依存症の初歩的な知識である。
ダルクでは、依存症が治るとは考えていない。1日1日を薬物無しで生きられるかとい
う生を日々実行しているのだ。これくらいの知識は世の常識になってほしい。

週刊文春の記事では、≪衝撃だったのは、その容貌と語り口だ。力の失せた両眼に荒
れた肌、弛み出た腹部、時おり呂律が回らなくなる滑舌。≫とあるけれど、一体、何年
前の田代さんとの比較なのか。力の失せた両眼に荒れた肌は、薬物を散々やっていれ
ば当たり前だ。弛み出した腹部は、年齢的にも、芸能活動をしていないことからも、別
に不思議ではない。滑舌の悪さは昔から少しあった。総体として、まあ、驚くようなこと
はない。

週刊文春は≪「取材は更生施設内、本人はリハビリ中、という体(てい)でなければ、と
ても電波には乗せられないと思いました」民放スタッフがそう言うのだから、口火を切っ
た天下のNHK内はいかばかりか。≫と書いているけれど、ダルクは更生施設にはちが
いないとしても、いつでも外出できる自主的なグループの集まりの場であって、刑務所
ではない。わたしは幾度もお邪魔して薬物依存の被告人のことについて相談に乗って
もらったり、情状証人をお願いしたりしてきた。裁判所も検察も彼らの活動を評価してい
る。かなり頼りがいのある人たちなのだ。民放スタッフがダルクを正確に理解していない
か、週刊文春の記者の取材が不正確なのか、どちらかだ。

私は、薬物依存と闘っている田代さんが外に向かって自分の失敗談を話すようになった
ことを少し頼もしく思ってみていた。

ところが、同じ画面をみても、全く違う評価をする人たちがいる。
週刊文春の記事によると、≪「放送後、主婦層を中心に『反省しているとは思えなかった
』、『繰り返し逮捕されている人を出していいのか』
といった意見が寄せられた。局内でも、
本当にクスリが抜け切れているのかを不安視する声も出た」(NHK職員)≫とのことだ。

このNHK職員は、どれだけ薬物依存症を知っているのか。
依存症は病だ。反省しているとかいないとか言うこと自体が的外れだ。繰り返し逮捕され
ていることも問題ではない。逮捕されなくても繰り返し薬物を使用している人は無数にい
る。その本人も家族も依存症から抜けられずに悩んでいる。それが薬物依存症の問題
だ。主婦層を中心に寄せられた無知の意見など気にする必要はない。というか、主婦層
を中心に、という言い方自体、主婦層を無知の代表として書いているのかもしれない。ど
うであれ、無知無理解層に怯む必要などない。

週刊文春は、田代さんの取材を許可したダルク本部の近藤恒夫代表のコメントをとって
いる。近藤さん自身、薬物依存の人で、過去は凄まじい。そうであるだけに彼の話には
説得力がある。
≪「薬物依存者の排除は再犯に繋がる。清原の味方をできるのはお前くらいだろうと。
もちろん、田代は出所してからやっていませんよ。呂律が回っていなかったのは、後遺
症でもなく、精神安定剤を処方されているからです。緊張すると手は震えるし、人がみれ
ば『またやっている』と言われるかもしれませんが」≫

記事の以下はそのとおり。
≪だがこの先、2度と過ちを繰り返さない保証はどこにもない。近藤代表が続ける。
「田代に教えているのは、『もうやめました』とは絶対に言うな、ということ。自分はクス
リに勝てない人間だと認めるのが大事で、明日やるかもしれないけど、今日はやらな
い。それを繰り返して“やめ続けていく”
んです」
清原にも、同じ道が待つ。≫

清原さんはこれからの生涯、薬物から抜け出すことはできない。
日本中に、わたしたちの周りに、わたしたちの中に、無数の清原さんがいる。私たちはどうする?