千代田区特別職報酬等審議会の暴走

毎日新聞2015年12月10日 13時10分(最終更新 12月10日 13時25分)
≪東京都千代田区は10日、区議に支給する政務活動費を議論する審議会を開き、
区議1人当たり月額15万円のうち10万円を報酬に付け替える案を、年明けにも
石川雅己区長に答申することを了承した。区議会が条例を可決すれば早ければ来
春から施行されるが、政務活動費の透明性を高める全国的な流れに逆行する同区
の姿勢に、批判の声が上がっている。≫

私は今年3月まで千代田区議会の政務活動費のチェック機関・政務活動費交付額
等審査会
の委員をしていた。ほぼ毎年1回、会派・議員らの前年度の政務活動費(
以前は政務調査研究費と呼んでいた)の使いっぷり(=浪費ぶり)を分析して意見書
を作成し、議長に提出していた。

議会として使途基準を設けてはいるものの、会派によって議員によって使途はさまざ
ま。最初のころは???だらけだった。徐々に?は少なくなったが、それでも、いつま
で経っても消えない?もあった。

私は、ずっと、「このような使い方をしていたら、訴訟を起こされれば負けます」と言
い続けていた。
議員はこれをどう聞いていたのか。

そして、一昨年だったか、住民訴訟を起こされた。監査委員が議員らを牽制するよう
な意見を出していれば、住民訴訟は起こらなかったかもしれない。どこの自治体でも
そうだが、監査委員がちっとも機能しない。

私は議員らに、「住民訴訟を起こされた内容全部について負けることはないだろうが、
一部は負けるだろう。それはそれとして受け止めて改善すればいいのだ」と訴えた。
議員らがこの言葉をどう受け止めたかはわからない。

昨年10月、過去10年分の政務調査研究費・政務活動費の支出について千代田
区議会のホームページで公表しているデータを主な資料として問題点を検討する
意見書(案)を作成した。やはり、問題だらけだった。

≪同区は区議に経費として支給する政務活動費について、領収書を添付して使途
を報告する義務を課している。≫

が、政務調査研究費が条例化された当初の千代田区議会は出色だった。領収証
の原本を提出させる手法を採用していた。原本を提出することは、コピーを提出する
ことで、領収証を二重に使うごまかしをしないという選択をしたことになる。
当時、都道府県議会はA4、1枚の項目ごとにまとめた金額を書いたものだけを提
出していた時代で、領収証の原本を提出する千代田区議会は時代の先端を突き進
んでいた。千代田区議会の先進性は抜きん出ていた。審査会の委員をしていた私と
しても、そんな千代田区議会が誇らしかった。

それがここ数年、かなり沈滞気味になり、改善に消極的、否定的になっていた。

そして今年3月。それまで更新されてきた審査会委員の地位を、何の予告も、爾後
説明もないまま、更新してもらえなくなった。私だけでなく、ほかの委員も同じ扱い。

千代田区議会になにが起こっているのか、いぶかしく思っていた。それが、最近に
なってついに謎が解けた。

≪石川区長の諮問機関「特別職報酬等審議会」は、政務活動費の3分の2を報告
義務のない議員報酬に組み入れる考えを示した。≫

こういうことが仕組まれていたのか。
審議会の議事録をみて驚いた。
千代田区議会議員を40年もしていて、ついこの3月に辞めたばかりの中村恒雄
が、新たに委員に加わり、議員報酬を上げるべきことを滔々と述べているのだ。これ
に異論や疑問を挟む者は皆無。会長はすっかり中村氏に同調している。
特別職報酬等審議会は第三者的立場で議論をする場だったのではないか。それ
が、区長が中村元議員を審議会委員に選んだことで、一気に覆った。

議会が設置した審査会が政務活動費の使い方を正常化しようと努力してきたことを、
まるで嘲笑うかのように、特別職報酬等審議会(会長:武藤博己法政大学大学院教
授)は、政務活動費を報酬に付け替えればいいという意見をまとめた。

≪10日の審議会では、委員たちから「白紙に戻した方がよい」「いったい10万円

これまでどうなっていたのかという素朴な疑問もある」と反対論も出た。≫

まっとうな意見だ。が、

≪会長の武藤博己・法政大教授は「(結論は)99%変わらないが、意見は書き込
んだうえで答申とする」と議論を終結させた。 ≫

武藤委員長の自信たっぷりの迎合ぶりはどこから来るのか。これでは区長の旗振
り役だ。
千代田区議会与党(自民党公明党)は、前回の区長選挙で他の候補を押してい
た。その候補者が落選したことで、当選した現区長とは敵対関係になってしまって
いた。

それを、区長が千代田区議会議員歴40年の中村氏を委員に採用するのは、中
村氏を区長側に引き寄せ、区議会議員の報酬を上げる方向に誘導し、区議会を
翼賛会にしたいからだ。

≪答申案では、政務活動費に対して全国的に厳しい指摘が出ていることを受け「
区民にとって、政務活動費の使途や金額のみをもって評価することは不可能だ」
「政務活動費そのものを廃止し、自分の報酬の中から自らの責任において支出を
していく時代へと向かっている」とした。≫

まったく的外れの、暴走答申案だ。