<ベルギー同時テロ>初動対応の失態を考える

毎日新聞 3月28日(月)10時41分配信
≪【ブリュッセル八田浩輔】ベルギー同時テロで、同国政府と地下鉄運営事業者との間で情報
共有が遅れ、爆発が起きた地下鉄駅で乗客の避難が間に合わなかったことが分かった。同時
テロでは事前の捜査や警戒だけでなく、新たに初動対応でも失態が明るみに出た形だ。≫

日本で近年中に同じようなことが起こるとはちっとも思わないけれど、それでも日本社会にとっ
て参考になることはある。政府も国民も考えておいた方がいい問題だ。

≪ベルギーのヤンボン内相は25日の議会特別委員会で、テロ発生直後の政府対応を詳細に
説明した。ブリュッセル国際空港での最初の爆発は午前7時58分。その52分後の8時50分
に政府は予防措置として市内の主要な駅や地下鉄の駅から乗客らの避難を求めることを決定
した。9時4分には国内のテロ警戒レベルを最高に引き上げ、ブリュッセル市内の地下鉄の駅
と主要な鉄道の駅から市民を避難させ、入り口を閉鎖するよう事業者に求めたとしている。≫

テロ攻撃が同時並行的に行われ得るとすると、最初の事件への反応と対応の早さがカギにな
る。
最初が国際空港の爆発だったことからすると、爆発直後に政府には通報があったはずだ。52
分後に避難決定が出たとのことだが、対策会議はいつからどのように行われたのか。9時4分
に警戒レベルを最高に引き上げたとのことだが、鉄道事業者への連絡はいつだれがどのよう
に行ったのか。

≪しかし、地下鉄を運営するブリュッセル首都圏交通会社は27日、毎日新聞の取材に「地下
鉄での爆発前に乗客の避難を求める連絡はなかった」とヤンボン氏の説明を否定した。実際、
地下鉄駅では避難は行われておらず、警戒レベル引き上げから7分後の9時11分に欧州連
合(EU)本部に近い地下鉄マールベーク駅で爆発が発生。身元が判明したテロの犠牲者24
人のうち10人が現場で死亡した。≫

「連絡はなかった」?
連絡がなければ鉄道事業者としては乗客を避難させようがない。


≪政府と地下鉄運営事業者の主張の食い違いについては、ベルギー議会の特別委員会が経
緯を調査するが、複数の地元メディアはヤンボン氏の説明が事実だとしても爆発7分前の通知
では甚大な被害は防げなかった、と批判的に報じている。≫

7分前でもいくらかはちがったかもしれない。ないよりあった方がいい。
こういう問題は結果論になりがちで、何も起こらなければ、「何で大騒ぎさせたんだ」という抗議
が無数に出る。が、それは仕方のないことだ。避難指示をした者としては、悪い結果にならなく
てよかった、と考えるしかない。場所柄、いまのベルギーでは、何も起こらないかもしれないと思っ
たとしても、起こる可能性を考えて対応しなければならないのだろう。

≪ヤンボン氏は27日、同国のベルガ通信に対し、爆発前に事業者側に連絡をしたことを再度
強調した上で「この問題について新たな議論は望まない。委員会による調査の対象になるだろ
う」と述べるなど事態の沈静化に努めている。≫

同時テロをされたら、次々に起こる被害を確実にすべて回避することはほとんど不可能なのか
もしれない。しかし、努力次第で回避できる被害があるかもしれないし、被害を小さくすることが
できるかもしれない。だから、どれくらいの速さでどのような連絡ができるか結果を大きく左右す
る。自然災害のときの対策、対応にも共通する。今回の連絡体制や連絡の実態は、失敗をうや
むやにすべきでない。