覚せい剤事件で「尿すり替えの可能性」

東京新聞2016年3月16日 夕刊
覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた東京都町田市の男性(47)に、東京地裁
立川支部は16日、逮捕、起訴の決め手となった尿が、男性のものと認められないとして、
無罪(求刑懲役2年)を言い渡した。

≪判決で深野英一裁判官は、警察が鑑定の段階で「他人の尿にすり替えた可能性を否定
しきれない」と指摘。強制採尿の際に虚偽の調書が作られていたことも指摘し「捜査は極め
てずさんで、およそ信用できない」と非難した。≫

警察が鑑定の段階で「他人の尿にすり替えた可能性を否定しきれない」という指摘を、裁
判官がしている。どういうことだ。

≪検察は、男性の尿を検査した結果、覚せい剤の陽性反応が出たとする警視庁科学捜査
研究所(科捜研)の鑑定書を証拠提出していた。しかし、同支部は証拠として認めていなか
った。≫

科捜研がインチキ?

≪男性の弁護人によると、男性は逮捕後から、一貫して容疑を否認している。通常、覚せ
い剤取締法違反容疑の事件では、容疑者から採取した尿の保存容器に、容疑者の署名
や指印が入ったシールで封をする。

そうすることになっている。でないと、すり替えられる危険、取り違えられる危険がある
からだ。

≪しかし、公判で証拠として提出された尿の保存容器には、白紙のシールが貼られてい
という。男性は公判で、捜査段階でシールに署名したと証言している。

白紙のシール? それ自体が「だれの尿だかわかりません」と言っている。あり得ない!

≪男性は昨年3月25五日に警視庁町田署員に職務質問され、採尿を拒んだ後、令状に
基づき強制採尿させられた。東京都内や神奈川県内などで覚せい剤を使ったとして5月に
逮捕され、6月に起訴されていた。11月に保釈されている。≫

≪判決は、強制採尿から逮捕まで一カ月以上経過しており「相当日数、事件処理を放置し
ていた」と、捜査のずさんさも指摘した。≫

通常より遥かに長い日にちがかかっている捜査は、それだけで何か異常なことが起こっ
ていると考えるべきだ。そして、まともな捜査だったことが具体的に証明できないかぎり、
証拠採用されるべきでない。

≪男性はグレーの上下スーツ姿で法廷に出廷。深野裁判官は「被告人は無罪」と言い渡し、
退廷する際には「お疲れさまでした」と声を掛けた。≫

裁判官は対等な人間として被告人に声をかけている。こういう裁判官はほとんどいない。

≪弁護人は判決後、取材に「科捜研の鑑定書は、被告に弁解を許さないほどの強い証拠。
それなのに尿が本人のものか確認されずに作られていた。この実態からすれば、過去に
も尿のすり替えがあったと疑わざるを得ない」と話した。≫

科捜研の仕事は、だれの尿かを判別することではない。その手前の手続が厳格でないと、
科捜研が有能だったとしても無意味だ。

東京地検立川支部は、控訴や関係者の処分について「判決内容を精査し、対応を検討
したい」と述べた。≫

どうしてこんな事件を起訴したのか。地検はそれを反省したほうがいい。