死刑制度廃止を考える

毎年秋に開催される日弁連の人権大会ではこれまでも死刑制度を取り上げて来たが、
今年は死刑制度廃止を提案するということで、これまでの「考えよう」から大きく踏み
出した。参加しようかとも考えたが、大人数の集まる人権大会の場でどこまで議論を
深めることができるか疑問だったので、パスした。
マスコミは、大会前から取り上げ、注目を集めていた。
大会はどうだったのだろう。

産経新聞2016.10.7 09:26によると、
≪日本弁護士連合会(日弁連)が6日、福井市内で開催した死刑制度に関するシン
ポジウムに、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(94)がビデオメッセージを寄せ、死刑制
度を批判したうえで「殺したがるばかどもと戦ってください」と発言した。会場には全国
犯罪被害者の会(あすの会)のメンバーや支援する弁護士らもおり、「被害者の気持
ちを踏みにじる言葉だ」
と反発した。≫

これがニュースか?

日弁連は7日に同市内で開く人権擁護大会で「平成32年までに死刑制度の廃止
を目指す」とする宣言案を提出する。この日のシンポジウムでは、国内外の研究者
らが死刑の存廃をめぐる国際的潮流について報告。瀬戸内さんのビデオメッセージ
はプログラムの冒頭と終盤の2回にわたって流された。≫

≪この中で瀬戸内さんは「人間が人間の罪を決めることは難しい。日本が(死刑制
度を)まだ続けていることは恥ずかしい」
と指摘。「人間が人間を殺すことは一番野
蛮なこと。みなさん頑張って『殺さない』ってことを大きな声で唱えてください。そして、
殺したがるばかどもと戦ってください」
と述べた。≫

わかりやすい言いぶりだが、「殺したがるばかども」ってだれだ?
という疑問は沸く。
何となく死刑制度に賛成している一般国民を指すのか、死刑を求刑する検察官か、
死刑を宣告刑に選ぶ裁判官、裁判員か、死刑執行を決める法務大臣か、死刑を執
行する刑務所の職員か、死刑執行を淡々と報道するマスコミか。どれも、「殺したが
る」という感じではない。殺人事件の被害者遺族だろうか。

≪瀬戸内さんの発言について、あすの会顧問の岡村勲弁護士は「被害者はみんな
加害者に命をもって償ってもらいたいと思っている。そのどこが悪いのか。ばか呼
ばわりされるいわれはない」
と話した。≫

「被害者はみんな加害者に命をもって償ってもらいたいと思っている。」
これは事実ではない。
そう思う人もいれば、そう思わない人もいる。そう思っていた
のが、時間の経過の中で変わっていくことだってある。「みんな」ではない。岡村弁
護士は、「みんな」という言い方をすることで、被害者はみんな加害者に命をもって
償ってもらいたいと思わなければならない、そう思わない人は被害者ではない、とい
うメッセージを発してしまっている。会の顧問弁護士にこのように断定されてしまうと、
同じように思わない被害者は自分の本心を言えなくなる。

「被害者はみんな死刑を望む。被害者でない人には被害者の気持ちがわからない
から死刑制度廃止なんて(安易に?)言えるのだ。」という論は、被害者様論の一
種だ。
被害者様以外の者には被害者様の気持ちはわからないのだから、被害者様
の言うことを聴け、という上から目線に思える。被害者と被害者でない人を相互理
解、共感できる関係と捉えない
で、切り離して、死刑を望む被害者様に反論するな、
となる。
これでは議論は進まない。というより、始まらない。

それでいいのか。