マスコミであまり宣伝されていない、映画『この世界の片隅に』を観た

この世界の片隅に』には、正直なところ、あまり期待していなかった。
のん(能年玲奈)を主人公の声にすることで客を集めようという、あざとい反戦映画なのでは
ないか、と。

だからか。『この世界の片隅に』はマスコミの宣伝をあまり見かけない。宣伝しまくりの『君の
名は。』とは正反対。しかも、反戦映画じゃあ客は入らないだろう。

で、この前の日曜日。「きっと客席はガラガラで席は好きに選べるに違いない」と思いながら、
この世界の片隅に』を観に行った。上映開始時刻の30分前にチケットを買ったときにタッチ
パネルに表示される座席の埋まり具合をみって、ちょっとびっくり。235席のうち7割くらいの
席がすでに売れていた。え、のん(能年玲奈)の名前に釣られてしまう人たちがこんなにいる
のか? そんなことはないだろう・・・

ストーリーは、軍港がある呉に嫁入りした、ぼうっとした性格の、絵を描くことがなによりも好き
な女性とその周りの人々が戦時下どのような生活をしていたかということを淡々と追っていくだ
け。初めのうちは退屈な感じで観ていたが、話が進むに従って、自分もそののんびりした世界
に入って行く。楽しみを、喜びを、ひもじさを、恐怖を、取り返しのつかない無念を、主人公やほ
かの登場人物と共有していく。

映画の後半。絵を描くことで周りの人たちを和ませていた主人公が、その右手を失ったとき、
主人公は右手より大事な存在を失った。後悔しても後悔し切れない無念さ悔しさ。生き残った
主人公は自分が生きていていいのかと悩み続ける。それから原爆の投下。生き残っていること
に悩みながら少しずつ再生してゆく。この時代。きっとこういう人がたくさんいたのだろうと想像
させる。

映画が終わって劇場内が明るくなると、8割以上の座席が埋まっていた。年配ばかりだろうと
周りを見渡すと、年齢層はばらばら。驚き。しかも、みんな、満足そう。つまらなそうに出て行く
人はいなかった。戦時下のリアルな日常を疑似体験させてもらっただけなのに。いまどき、それ
は悪くない。そう思った人が結構いるだろうと思った。これを反戦映画かどうか分類する意味は
ない。

3年前に上映された『永遠のゼロ』に感動した人たちがたくさんいるようだが、その人たちは、
この世界の片隅に』をどんなふうに観るだろうか。是非、観てほしい。同じような感動は絶対に
しない。でも、きっとおもしろい体験にはなるはずだ。