報道が問題にしない、「参考人」の自殺の問題点

愛媛県今治市の殺人事件の「参考人」が自殺したというのを、新幹線の中の即報で知りました。
このとき、どういう記事ができるか想像しました。そして、毎日、共同通信は、予想どおりになって
いました。捜査に問題があったという意見と、なかったという意見の両論併記です。朝日は、予
想どおりではありませんでしたが、大差ありませんでした。東京新聞は、共同通信の配信記事を
使っており、「一連の捜査の適否が問われそうだ。」とお茶を濁しています。讀賣は、「識者」のコ
メントを使わず、近所の主婦の「警察の失態ではないか」という声を取り上げています。

どれも無難にまとめているという感じです。どの社も、この自殺の背景にある問題の重大性に気
づいていないのでしょうか。

女性は被疑者ではありませんでした。参考人です。弁護士会は弁護人を派遣していないはずで
す。当番弁護士は、逮捕されている被疑者に対するものだからです。そういう参考人が、午後1
時半から午後10時半まで9時間も警察署の取調室に入れられていること自体、異常です。休憩
時間が20分というのは少な過ぎます。取調べ時間が5時間だったというのは疑問です。仮にそ
うだったとしても、本人の意思によらずに警察署の中に9時間もいることだけでも異常に長過ぎ
ます。

参考人としての任意同行だったという扱いからすると、被疑者であれば当然認められる黙秘権
や弁護人選任権の告知もなかったはずです。黙秘権も知らず、弁護人も呼べずでは、参考人
いされた女性は精神的に参るに決まっています。午後10時半に解放されても、弁護士に相談す
るという選択肢をすぐに思いつくほどの冷静さは失っていたのではないでしょうか。

問題は、実態は被疑者として扱っていながら、警察側で被疑者として扱うにはまだ自信がない、
あるいは弁護士がつくと面倒臭いと考えて、参考人ということにしてしまえばいいという選択がで
きることです。

警察は、女性のDNAの一致をアピールしていますが、DNAは採取も移動も簡単ですから、女
性の自殺後に証拠を捏造することは簡単です。報道は、DNAの同一性という話に安易に乗って
はいけません。

女性は、殺人事件の真犯人かもしれません。そうだとしても、自殺をさせてはいけませんでした。こ
の女性が殺人を犯すに至った経緯は、他の類似犯在の発生を予防する上で重要です。その得がた
い資料を手に入れることができなくしてしまった警察の失態は重大です。

犯人ではないかという疑いのもとで事情聴取をするのであれば(捜査の当初は、目撃者か犯人か
わからないこともあるでしょうが、そういうときでも、目撃者としての事情聴取の範囲を越える質問を
するのであれば、被疑者として扱うべきです。)、必ず黙秘権告知をすること、弁護人選任権を告知
すること、それと事情聴取をする時間帯は昼間にして、せいぜい2,3時間程度に止めるべきです。

これで、今後、すべての参考人の自殺を100%防げるかどうかはわかりませんが、少なくとも今回
の事件の参考人の女性の自殺は防げたはずです。

こういう切り口の記事が日本のマスコミのどこにもないのは、どこの新聞、テレビ、通信社も、こうい
うことを一般の人たちに考えてもらう必要はないという考えなのでしょうか。