犯罪者の家族

昨日(22日)午後2時からフジテレビで放送された「ザ・ノンフィクション」(関東ローカル)
の「人殺しの息子と呼ばれて…後編」がすごかった。

「人殺し」は北九州監禁殺人事件のこと。インタビューに応じたのは、犯人を両親とする男
性(24歳)。匿名で顔を隠していたが、音声を変えていないので、男性の心の動きがよく
わかる。取材班はよくここまで漕ぎ着けたと思う。

妻が前編(10月15日放送)を録画してくれていたので、後編の放送を見る前に前編から
みた。前編は両親が逮捕されるまで、後編はその後の男性(逮捕時、8歳)の人生がどう
なったか。

前編。8歳になるまでの間、男性は自宅で起こっていたことを見ていた。死体をばらばらに
切り刻み、ミキサーにかけて、どろどろにしていた。その臭いの酷かったこと。後で気づい
たのは、ペットボトルにどろどろの液体を入れて、遠方に捨てに行く。自身も、両親に電極
を通される苦痛を幾度も与えられた。戸籍もなく、幼稚園、小学校も通わせてもらえず、家
の中に閉じこもらされていた生活。

後編。8歳で両親が逮捕されたことで、男性は救われたか。実は救われていなかった。「人
殺しの息子」というレッテルがついてまわり、散々な人生が続く。よその子どもは両親がい
て、家があって、お金があるのが当たり前。男性にはどれもない。それが8歳からの人生。
とてもふつうの(というものがあるとすれば)信頼関係を他人と持つことができない。他人を
好きになるという感覚もわからない。
両親は、逮捕され刑事裁判を受ける身分だが、屋根がある場所に毎日いられるし、お金に
も困らないし、外部の人に直接、嫌がらせをされることもない、平和な生活を送っている。
父親は死刑判決、母親は無期懲役判決が確定しているが、男性が外で暮らす苦しみを知
らない。
母親は、父親から離れていることで、自分の思いを息子(男性)宛ての手紙に書いてくるが、
男性にとっては母親は父親の言いなりになって自分を虐待し続けていた加害者であり、そ
の体験と手紙の優しい言葉が重ならない。
父親に面会に行けば、「署名活動をしてくれ」と、なおも死刑を免れることしか考えていない。
男性は、取材者に「父親と母親、自分ではどっちに似ていると思うか」と質問され、少し考え
てから、「父親だと思う」と言ったあとに続けて、「だから、いつか自分も父親と同じようなこと
をしてしまうのではないかと考えると、恐い」と言い切った。
そういう男性が今は結婚して、女性と2人で生活している。「お互いに似ている境遇なので」
という。「では、子どもは?」と聞かれると、「つくらない」ときっぱり言う。ここでまた、「いつか
自分も父親と同じようなことをしてしまうかもしれないので」という。父親の血は自分で断ち
切らなければと思っているのかもしれない。
犯罪者の家族も犯罪被害者だということを痛感させられる。

日曜日の午後のドキュメンタリー番組。前編の6.3%(ビデオリサーチ調べ)の視聴率もな
かなかだが、昨日の後編の均視聴率10.0%(同)は、前編をみた人からの広がりだろう。
こういう番組をみて、犯罪者の家族のことを考えてくれる人が少しでも増えてくれるといいと
思う。