私戦予備・陰謀と特定有害活動・テロリズム

 朝日新聞の昨日の夕刊記事によると、警視庁公安部は20日にも新たに家宅
捜索をしたとのこと。

 記事には「捜索を受けたのは千代田区内にあるマンションの一室。パソコンや
書類など十数点が押収されたという。」とあるだけで、「事件」(私戦予備・陰謀)
との関連性がまったくわからない。記者は関連性を聞いていないのだろうか。「
事件」がそもそも存在しない上に、「事件」との関連性もわからない(曖昧?)強
制捜査が、法治国家において許されていいはずがない。

 常岡さんの自宅についても、警視庁公安部は捜索し、パソコンや携帯電話な
どを押収して行った。

 刑事警察の強制捜査なら、家宅捜索が始まると同時に、被疑者や周辺の人々
の事情聴取が連日始まる。そして日々、事件に関係する事実を確認し公表する。

 ところが、警視庁公安部がやっている今回の「捜査」にはそういう気配がまっ
たくない。
 警視庁公安部は最初から、だれも起訴に追い込むつもりなどないし、そのた
めに東京地検に事件を送致するつもりもない。
 なぜなら、送検すれば、捜査記録全てを東京地検に送らなければならない。
そうすれば、法務省検察庁)は一件記録から警視庁公安部がやっている公
安活動の内容を知ることになる。そんな事態を警視庁公安部が望むはずがな
い。

 今回ここで指摘しておきたいのは、警視庁公安部の罰則規定の解釈能力だ。
この点が特定秘密保護法の解釈運用に連動しているからだ。

 条文
 「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、
3月以上5年以下の禁錮に処する。」

 刑法には、私戦の予備・陰謀だけを規定していて、実行した場合についての
規定がない。島国の日本の中で暮らしている国民の一部が外国を相手に戦争
を始めることなんてあり得ない、と刑法を作った人たちは考えたからだ。わたし
もそう思う。明治時代に刑法がつくられてから今に至るまでこの条文が適用さ
れたことがないのも頷ける。そもそもこの条文は廃止されるべきなのだ。そうい
う条文だ。

 それを警視庁公安部は使ってきた。

 「外国に対して私的に戦闘行為をする目的」というのがすごい。
 「国交に関する罪」の1つとして規定されているから、それくらい影響力のある
実態を備える必要がある。

 宗教や民族、歴史的経過などから、日本国内に住んでいる人たちの一定勢力
が日本政府や国民にお構いなしに他国と戦争を始める準備をするなんて、アホ
らしいテレビドラマや映画としても作る人はいない。それほど現実味がないのだ。

 実行どころか、「予備」だってあり得ない。
 「予備」と言えるためには、ただ頭の中で考えるだけでなく、私戦の準備段階と
しての行為がなければならない。具体的には、兵器や弾薬などを準備したり、私
兵を集め訓練を始めるようなことだ。
 北大生はこのようなことを全く行っていない。

 刑事警察だったら、送検⇒起訴⇒有罪判決を視野に入れて捜査をするので、
絶対に強制捜査などしない。それを検察や弁護人、裁判所の爾後チェックに晒
されない公安警察は平然と行なう。刑罰規定の条文解釈能力が育たないという
か、欠落していると言わざるを得ない。

 それを東京簡易裁判所(東京地方裁判所?)の裁判官が捜索差押許可状を繰
り返し出すという形で後押ししている。上記の朝日新聞の夕刊記事でも、裁判官
の捜索差押許可状に基づいていることが書かれておらず、まるで警視庁公安部
の独断で強制捜査を強行しているかのようだが、そうではない。

 ところで、施行を間近に控えている特定秘密保護法
 その別表3号(特定有害活動)、4号(テロリズム)は、公安警察が主に秘密指
定することになる分野だ。

 三 特定有害活動の防止に関する事項
 イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において
  「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しく
  は研究
 ロ 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する
  重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
 ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号

 四 テロリズムの防止に関する事項
 イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テ
  ロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
 ロ テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重
  要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
 ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ニ テロリズムの防止の用に供する暗号

 これらの情報にアクセスしようとすることを特定秘密保護法は厳しく処罰する
(24条、25条)。公安警察の条文解釈能力からすると、「あれもこれも特定秘
密にできる」と言わんばかりに特定秘密の範囲を際限なく広げ(組織内部では
特定秘密保護法3条2項により表示されているにしても)、同時に、処罰範囲
を際限なく広げていくことになるのではないだろうか。

 特定有害活動とテロリズムは適性評価の調査対象でもある特定秘密保護法
12条2項1号)。運用基準ではかなり絞り込んだつもりだが、実際の運用でどこ
まで広く深く調査されてしまうのではないか。運用実態の透明性を高めないと、
過剰な監視がシステム化してしまうおそれがある。