質問と教唆はちがうのだが・・・

 きのう、日本新聞協会に行って、秘密保護法の話をして来た。
 ここでわたしは、警視庁公安部による私戦予備・陰謀罪被疑事件「捜査」の
問題点を、秘密保護法別表3号、4号とのからみで説明した。

 要は、弁護士も検察官も裁判官も刑事法学者も実際に起こる事件として扱
ったり研究したことがない、予想だにしない私戦予備・陰謀罪という条文をつ
かって、公安警察は自分立ちのやりたい「捜査」をするし、裁判官は強制捜査
に令状(捜索差押許可状)を出すという形で加担し、強制捜査の受けた者の
仕事を平然と台無しにしている。それと似た事態が、公安警察が主な取扱い
官庁となる別表3号(特定有害活動)、4号(テロリズム)の関連でも起こる危
険性がある、というものだ。

 これに対して、参加者から「質問しただけでも教唆罪になるかのような記事
があるが、そうなのか?」
というような質問があった。参加者の質問の意図は
「質問者は自分の質問している対象情報が特定秘密とは知らないのだから
故意がないのではないか。また、質問するだけでは教唆罪にいう働き掛けに
ならないのではないか。それなら犯罪は成立しないはずだ」
というところにあ
った。

 ご指摘のとおり。質問者の理解は正しい。

 が、実際の場面と紙面で文字化した場合とではかなり事情がちがうというこ
とに気をつける必要がある。

 一問一答の1回だけのやりとりであれば教唆にはならない。これはまちが
いない。新聞の記事は紙面の制約もあってごく簡単な設問形式になってい
る。ここが現実とまったくちがうのだ。

 ふつう、人と人が会話をするとき、1つ質問をして、それに1つ回答があっ
て終わり、ということはない。
自分が質問していることが特定秘密に関する事
実かどうかを知らないまま会話が進んでいくことはあるかもしれない。会話が
進む中で、「ん? これはひょっとして特定秘密?」と考える場面展開になるか
もしれない。そのときは意識していなくても、後から振り返ってみると、「あのと
きの会話で話題にしていたことは」と感じることがあるかもしれない。

 この会話全体は見ようによっては教唆っぽいものになっているかもしれない。
そうなれば、質問者(たとえば、地元の活動家やフリージャーナリスト)を目障り
だと思っている行政機関がこれを漏えいの教唆と受け止めて警察に告発し、公
安警察が捜査対象として動き出すかもしれない。

 警察が捜査をするとき、捜査対象者のふだんの生活ぶりや言動、周囲にどの
ような人たちがいて、どのような関わり方をしているかなどを調べる。そこから
「不審点」を拾い出し、それにこのときの会話全体を重ねると教唆という評価が
できると判断するかもしれない。本人が「教唆なんかしていません」と言ったとこ
ろで、警察官は「教唆に該当するかどうかは捜査側が判断することだ。最終的
には裁判所が判断することだ」と言い切るだろう。

 通常、捜査は起訴、有罪判決を目指して行われるので手堅く行われなければ
ならない。しかし、公安警察はもともと犯罪捜査をする部署ではないので、そう
いう視点を明確に持っていない。わたしは最近、裁判で公安担当の警察官複数
を相手に証人尋問をしたことがあるが、全員が強姦罪の条文の内容も裁判例
全く知らないで平然としている(公安警察はこれで通る!)ことに、「え、これが警
察官なのか」と愕いた経験がある。公安警察はどうもそんなものらしい。ふだん
から犯罪構成要件を意識して仕事をしている刑事警察とはまったくちがう。
 そういう公安警察が、捜査をしたという形跡を残せばいいという考え方で、「捜
査」を始めてしまう可能性がないとは言えない。

 しかも、そのような尻切れトンボ的な「捜査」を批判しないマスコミばかりなら、
そういう暴走がまかり通ってしまいかねない。

 私戦予備・陰謀罪被疑事件「捜査」にはそういう不気味さと危険性がある。


*ご案内*
12月6日午後1時45分〜4時45分
JR四ツ谷駅前の主婦会館4階・シャトレ
シンポジウム「秘密保護法で公安警察の暴走が始まる!」「秘密保護法別表3号、
4号は必要か?!」