臺宏志記者がいなくなった毎日新聞

毎日新聞には少し前まで情報問題に超詳しく、かつ、しぶとい臺宏志さんという記者が
いた。
臺さんは「危ない住基ネット」とか、「個人情報保護法の狙い」などの単行本も出し
ていて、徹底的に批判的な問題提起をしていた。

住基ネットの生まれ変わりとも言うべきマイナンバー制度について、いまの毎日新聞はど
う位置づけているのか。

秘密保護法にはきびしい批判をしている毎日新聞だが、2015年03月31日朝刊の社
をみるかぎり、マイナンバー制度についてはほとんど政府の広報機関以下に成り下が
っている。

冒頭に、≪年金や納税などの情報を一元管理する共通番号(マイナンバー)制度≫とあ
るが、年金と納税なら別にマイナンバー制を導入しなくたってできること。マイナンバー制
は必要ない。

≪今から半年後の10月には、赤ちゃんからお年寄りまで、住民票のある全ての人に12
ケタの番号が通知される
ことになっている。≫

通知は個人単位?世帯単位?
通知は住民票上の住所に送られるが、いろいろな事情でそこに住んでいない人たちが無
数にいる。住民票上の住所に住んでいる人が転送してくれる人間関係の人もいれば、そ
うでない人もいる。住民票上の住所に住んでいる人に知られたくないと思っている人もい
る。そこはどうカバーするの?
そんなこと、そんな人たちのことは知ったことではないのか。

≪ところが、国民にも、また中小企業などにも、内容がほとんど伝わっていないのが実情
だ。国民の理解や支持なしでは成功しない。政府は制度の目的と不安の解消策の説明
に、もっと力を入れる必要がある。≫

それは、制度が本当は国民や中小企業の利益のための制度じゃないからだ。本当にお
得な制度なら一生懸命知りたがるって。
「制度の目的」ってお題目ってことか。
「不安の解消策」って、言っているのは一部の人たち(わたしも?)で、ほとんど人は知
らないんだから不安なんかないってば。

≪今国会には、マイナンバーの利用対象を銀行預金口座などに広げるための法案が提
出されている。≫

そうなんだけどね。

≪だが、利用範囲の拡大という以前に、そもそもこの制度が何のために導入され、誰の
ためになり、どういうリスクを伴うのか、また伴わないのか、という基本的な情報が国民に
十分届いていない点が問題だ。≫

「何のために導入され、誰のためになり」というのは、本質を突いた問題の指摘だ。で、
毎日新聞はどう理解しているんだ。本質論ではない建前論であれば、国民一般が理解す
る必要はない。政府の建前論を国民に十分に届けるっていうのは、昔、大新聞社がやっ
ていたことではある。

内閣府が今年1月に実施した世論調査によると、「内容まで知っていた」と答えた人は
28%に過ぎなかった。いまだに9割近くが制度の内容を知らないとの結果が出た民間調
査もあるようだ。≫

「内容まで知っていた」が28%。驚異的だ!日弁連の委員会でずっと取り組んで来たわたしだって、全部理解できているか不安があ
るというのに。「内容まで知っていた」人たちがこんなにたくさんいるなんて、驚きだ。

≪不安が先行するのも無理はない。内閣府の調査では、マイナンバー情報の不正利用
に対する懸念を挙げた人の割合が32%と、約3年前の調査と変わっていなかった。≫

表に出る番号なんだから、不正利用されるに決まっている。それを「懸念」と切り捨てる。
どういう問題認識をしているんだ。

≪理解が進んでいないのは一般市民だけではない。企業も従業員の税や社会保険に関
する手続きで、従業員本人や扶養家族のマイナンバーを取り扱うことになる。情報が漏れ
れば罰則の対象となるため、どのような管理体制が必要なのか、何が違反にあたるかな
ど、不安や戸惑いがあるようだ。≫

「あるようだ」って、何とも他人事。毎日新聞社は大丈夫ってことか。

マイナンバーの適用範囲を拡大する法案に盛り込まれた預金口座への付番は、高齢化
に対応した税制や社会保障制度を取り入れていくうえで基盤となるものだ。≫

そうするつもりでも、できないね。

≪本当に公的支援を必要とする人に給付を限定したり、裕福な高齢者の実質負担を増や
したりするなど、メリハリのある制度で、社会保障費の伸びを抑える必要がある。それには、
共通番号を通じ、行政が個人の資産や所得を合算して正確に把握することが不可欠
のだ。≫

それができないんだってば。

≪だが、今回の法案では、預金口座への付番が強制力の伴わない任意扱いとなった。
「漏れ」を許すような制度では信頼が得られない。≫

全預貯金口座に強制付番ができると思ってるの?
現実無視。思考停止。
自民党のヒヤリングで、「できない」と言ったら、議員から「第一歩だ」という発言があった。
第一歩しか踏み出せない、ゴールには絶対に辿り着かないことははっきりしている。それ
を「第一歩」と言うの詭弁だ。

≪早期の義務化には国民の強い拒否反応が予想されるが、だからこそ、「何のために」の
説明に今、力を入れる必要があるのだ。「便利になる」「効率的に管理できる」だけでは、わ
ざわざ不安を伴うものを導入しなければならない意味が、伝わらないだろう。≫

義務化してもできない。この社説は政府の受け売りの上を行っている暴走だ。まさにお先
棒担ぎとはこのことだ。

臺さんの二代目になるような、専門性が高くてしぶとい記者は毎日新聞にはいないのだろ
うか。