秘密保護法案の概要のここが疑問〜パブコメ意見を出しました

「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を読みました。
問題だらけです。
特定秘密の保護に関する法律案の制定に反対します。
秘密保護法の立法化の必要性に疑問があります。
パブコメに出したわたしの意見を紹介します。
どうぞ、この法案を考える参考にしてください。


1 情報保全システムに関する有識者会議
この点に関連して、情報保全システムに関する有識者会議が作成
した、平成23年7月1日付の報告書『特に機密性の高い情報を
取り扱う政府機関の情報保全システムに関し必要と考えられる措置に
ついて(報告書公表版)』は、的確かつ合理的な指摘、提案をしている。
ここに指摘されている問題点について的確な対応がなされるなら、
これまでに発生している情報漏えい事件はほとんど防げるはずである。

2 秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議
秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議は、同年8月
8日付の報告書『秘密保全のための法制の在り方について』を作
成公表し、これが今回の方立案概要を作成する基盤になっているが、
この報告書の作成に当たって、情報保全システムに関する有識者会議が
作成した上記報告書がどこまで検討されたのか、報告書からは全く
わからない。秘密情報の管理を厳格に考えるのであれば、情報保全
システムの在り方と法的規制の在り方をどのように組み合わせるかを
丁寧に考える必要がある。情報保全システムの方は臨機応変、柔軟な
運用が確保できなければならない。人を管理し罰則に基づいて処罰
する方は、罪刑法定主義や適正手続の保障などに基づき厳格に運用
されなければならない。

3 「特定秘密」の指定
行政機関の長が指定するとなっているが、そのときどきの政権党内の
力関係で決まる大臣が「特定秘密」を自ら責任をもって判断できるとは
思えない。実際には、各省庁の官僚が判断することになる。
「特定秘密」の範囲を広げれば広げるほど、官僚は仕事がやりやすく
なるであろう。しかし、それは同時に「特定秘密」に関わる関係者の
人数を多くしてしまい、全員に高い規範意識を維持し続けさせることが
むずかしくなり、漏えいを防ぐための対策とその実行が困難になる。
「特定秘密」を極力少なくし、かつ、秘密期間を極力限定してこそ、
秘密維持の実効性を高めることができる。

4 指定の有効期間
この点に関連して、法律案概要では、指定の有効期間の上限を5年とし、
更新可能としているが、秘密の期間は、国際情勢が目まぐるしく動く
現在の国際政治情勢では、数時間、数日という単位の秘密ということも
考えられるのかもしれないという短縮化の方向で考えるべきである。
5年はあまりにも長い。ましてや、5年もすれば国内外の政治情勢は
大きく変わっているはずであるから、期間更新を認める必要は無い。

5 「特定秘密」情報の状態
法律案概要の第2.1(1)オでは、「文書に特定秘密の表示をする」と
あるが、「特定秘密」は紙で書かれたものとしてしか存在しないのか。
デジタルデータや人の記憶としても存在することを想定すべきである。
紙情報だけを「特定秘密」にするという限定の仕方は、形式的な明確性と
いう点ではすぐれているが、「特定秘密」の内容の重要性という点から
すれば、デジタルデータや人の記憶をどのように管理するかという問題も、
並行して考え、対策を作っておく必要がある。

6 別表について
(1)第1号(防衛に関する事項)
これは自衛隊法別表第4そのものである。
イないしヌは個別的に項目を挙げているようにみえるが、実際には
自衛隊に関する事項のすべてが含まれてしまいかねない。この法改正は、
2001年10月になされており、前月に米国で発生した9.11
テロ事件をきっかけとして、ほとんど議論のないまま成立してしまった
もので、国民的な理解が得られているとは言えない。そのような規定を
そのまま秘密保護法に組み込むというのは、合理的でない。
今後、自衛隊の海外派兵や武器の研究開発などが活発化するようなことが
あれば、逆にそのような動きに危機感を抱く人々が、これらについて
関心を抱き、多方面から情報を収集し分析し反対運動に結び付けようと
する動きなどをするようなことがあるかもしれない。そのように考え
行動することは憲法言論の自由として尊重されるべきだが、第1号の
いずれかに該当する可能性がある。
自衛隊法の漏えいについての罰則規定は5年以下の懲役であるのが、
秘密保護
法案では10年以下の懲役になる予定である。第2.3(3)によれば、
自衛隊法別表第4をそのまま秘密保護法に移すようであるが、別表
第1号に該当しても、「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を
与えるおそれ」がないものは、処罰の対象にならなくなるのか。そうで
あれば、現在の自衛隊法では、秘密保護法ができれば処罰されなくて
よい行為を処罰の対象にしていることになるのか。そうではなく、現在の
自衛隊法も解釈運用上、「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を
与えるおそれ」あるものを処罰の対象としているのか。そうだとすれば、
自衛隊法で5年以下の懲役として評価されていた行為が、秘密保護法が
できると10年以下の懲役という評価変えをされる根拠は何かを説明
する必要がある。
(2)第2号(外交に関する事項)
「安全保障」は、平和憲法下の主権者である国民として、国内外の平和の
ために関心を持つべき事項である。外国の政府や国際機関との交渉・
協力の方針や内容(イ)は、その典型である。「条約」は国家間の公的な
合意であるから、「安全保障に関し収集した条約」が「特定秘密」の対象と
されるのは不合理ではないか。
(3)第3号(外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止に関する事項)
「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全」という概念が曖昧
である。「脅威となる防諜」か否かの区分けも評価がわかれるだろう。
「その他の活動」は具体的にイメージできない。これらの活動が本当に
国民にとって脅威であるならば、一国民として関心を抱き、調査研究する
者も現れるであろう。そのような活動が規制されることになるのは問題で
ある。
(4)第4号(テロ活動防止に関する事項)
「テロ活動」については、第2.1(3)ア①に定義が書かれているが、これ
でも曖昧である。そもそも我が国をテロの標的にするような国際的な動きが
あるのか。警察庁は、具体的な情勢を国民に説明すべきである。そして、
具体的な危険が切迫しているのであれば、そのような動きだけを封じる
ための規定を提案すべきである。2020年にオリンピックが東京で開催
されることになり、警視庁では、7年後のオリンピックに向けて、早速、
テロ対策のデモンストレーションをしているが、テロ対策のための大型
予算が獲得できることを確信しての、お祭騒ぎである。テロ対策は見世物
ではない。現状分析の結果を明らかにし、その対策についても国民に説明
すべきである。このような説明ができないテロ対策は、真に国民のためでは
あり得ない。
(5)暗号について
第1号ないし第4号では、暗号を「特定秘密」の対象にしているが、暗号は
刑罰によって守るべきものではない。世界中を敵に回して対抗しなければ
ならない事柄である。事実上、日本国内にしか通用しない刑罰で守ろうと
する姿勢自体が誤りである。常に現在使用している暗号が破られることを
意識しながら、変更してゆくべきものである。

7 特定秘密の提供
(1)ウについて
ウの「役職員」は、適性評価の対象者になると考えられるが、役職員の中に
適性評価上、不適となる者が出た場合には、行政機関の長は、当該役職員を
提供先から外すよう契約業者に求めることになるのか。契約業者内において
守秘義務違反をしたこともなく、契約業者では問題にしていない役職員を、
行政機関側の判断基準で外すよう要求し、契約業者が断われば、当該契約
業者とは契約しないことになるのか。かなり運用が難しい。
(2)エについて
エの「刑事事件の捜査その他公益上特に必要があると認められる業務
若しくは手続において使用する場合であって、当該特定秘密を使用し、
若しくは知る者の範囲を制限すること、当該業務若しくは手続以外に
当該特定秘密が使用されないようにすることその他当該特定秘密を使用し、
若しくは知る者がこれを保護するために必要なものとして政令で定める
措置を講じ、かつ、我が国の安全保障に著しい私署を及ぼすおそれが
ないと認めるとき」とは具体的にどのような場合を想定しているのか
理解できない。関係各行政機関の長はどのような場合を想定しているのか
典型例を明らかにしないと、理論的に詰めた検討ができない。

8 適性評価
(1) 実効性
①ないし⑦について詳細な個人情報を収集しても、いつだれがどの
情報を漏えいするかを推測することはできない。無意味な情報収集である。
多少は心理的な圧迫にはなるかもしれないが、それだけのことである。
むしろ、集積した個人情報に安心するようなことになりかねない。あてに
ならない情報は収集すべきでない。
すでに外国で実行している、すでに我が国でも事実上行っていることが
採用の動機になっているとすれば、それは思考停止である。果たして効果が
あったのかを十分に検討すべきである。
(2) 有効期間
法律案概要には指摘がないが、収集した個人情報の有効期間(更新時期)を
どのようにするかということも問題である。
イギリス、フランス、ドイツ、米国などでは、基本的に5年としている
ようであるが、そのように設定する合理的根拠はあるとは考えられない。
個人データの管理の基本は、最新性と正確性である。最新であり、かつ、
正確でなければ、その人の評価判断の素材として相応しくないからである。
行政機関個人情報保護法個人情報保護法、個人情報保護条例いずれも、
このような考え方に立っている。これに立てば、日々更新されるべきである。
また、そうしないと、対象者が明日、情報漏えいするかもしれない可能性を
判断することはできない。5年という期間は、個人データを利用する者の
姿勢としてあまりにもルーズである。
このようなルーズな制度は、対象者を不当に差別するきっかけになり得る
としても、適正に評価する判断材料にはならない。
では、数万人か重数万人か数十万人か不明であるが、取扱業務者全員に
ついて日々、最新かつ正確な情報を収集し続ける制度が作れるのか、運用
できるのか。どれだけの費用をかけるのか。実際にだれがこのような情報
収集の作業を担うのか。コストないし運用面からしても極めて問題が多い。

9 処罰規定
(1)捜査機関による情報独占の問題性
処罰規定を設けるべきでない。
処罰対象にするということは、捜査機関が収集した情報を独占できることを
意味する。これを認めてしまうと、摘発を免れようとする者が証拠を隠滅
しようとするであろう。そこで原因事実が歪むおそれがある。
また、捜査機関は捜査が終了し、起訴される事案では刑事判決が確定する
まで、収集した情報を外部に提供しないであろう。そうすると、情報漏えい
事件が起こった現場では、どのような経過で情報漏えいが起こったか
具体的な事情や経緯を知ることができず、最善の爾後対策を早急に立てる
ことができなくなる。
(2)被疑事実等の記載
逮捕状・勾留状の被疑事実、起訴状の公訴事実をどのように書くのか。
「特定秘密」性が争点になる刑事事件の捜査及び裁判で、「特定秘密」と
指定された情報の内容が法律上の要件を満たしているかどうかを判断する
には、捜査機関側が「特定秘密」に該当すると判断した具体的内容が
被疑者・被告人、弁護人側にわからなければならない。この点が曖昧に
なれば、被疑者・被告人の弁護人選任権が実質的に空虚になってしまう。
また、裁判支援を広く訴えることもできなくなる可能性がある。
(3)過失犯処罰
情報漏えいを処罰する規定として過失犯を設けるべきではない。
(4)国会議員の処罰
第2.2(1)イによれば、1(2)エの「特定秘密を知得した者」には
国会議員を含んでいる。秘密会や調査会に参加していた議員が、同じ政党の
国会議員や自分の政策秘書に特定秘密の内容を説明することが漏えい罪に
該当することになる。これは、議会制民主主義の否定である。
(5)アクセス行為の処罰
「人を欺き」「人に暴行を加え」「人を脅迫する行為」「財物の窃取」
「施設への侵入」「不正アクセス行為」は、それぞれが独自に犯罪構成
要件を充たすのであれば、その範囲で処罰すれば足りる。法定刑が
軽すぎるという反論があり得るが、人に対する制裁は刑罰だけではない。
懲戒免職になれば、月々の安定収入を失い、退職金も受けられず、将来の
生活に困るのは、多くの人にとって必至である。刑罰と合わせて、行為者の
将来を一変させる重大な不利益であるから、ほとんどの人は違法に秘密
情報を盗み出そうとはしないだろう。中には確信的な覚悟で実行する人が
いるかもしれないが、そういう人にとっては刑罰規定による脅しが効かなく
なっている可能性がある。
(6)「特定秘密の保有者の管理を害する行為」
 概念が不明確である。
(7)未遂、共謀、教唆、煽動
国の重大な情報を盗み出そうとしたことについて処罰すべきだと考える
発想は理解できないではない。しかし、刑事事件にすると、上記のとおり、
逮捕状・勾留状に被疑事実を、起訴状に公訴事実を具体的に記載しなければ
ならなくなり、却って、秘密を公にする方向で対応しなければならなくなる。
それは秘密の維持に反する対応である。
外形立証によれば、特定秘密の具体的内容を公にしなくてよいという考え方も
あるが、実質秘であることの主張立証はなされなければならないから、
甲号証によって外形的事実を立証せざるを得なくなる。
実害が発生していないということを評価するとともに、当該行政機関等に
おいて漏えいしそうになった経緯を早急に検証し、再発防止に努めることを
最優先すべきである。

10 報道の自由
今日の言論の自由、知る権利の担い手はマスコミだけではないから、
マスコミを特権的に不可罰的にする規定を設ける必要はない。インターネット
の時代となり、だれもが多方面から情報を集め、独自に分析して、インターネット
上に紹介することが常識となっている実情を踏まえれば、あらゆる人々の
言論の自由、取材の自由が尊重されなければならない。