画像データ消滅はウソ、とその報道

 2010年11月、津谷裕貴弁護士が自宅で侵入者(60代の身長約160㎝
の男性)に殺害されたとき、まさにその現場には2人の警察官(身長180㎝以上
の男性)がいた。津谷弁護士は、侵入者によって身体の正面から2回、腹部と胸部
を鋭利な刃物で刺されている。

 刺した本人は、「津谷弁護士が自分から刃先に向かって来た」と現実味のない
ことを言っていて、話にならない。現場にいたはずの2人の警察官はどうかという
と、「どこで刺されたかわからない」と、こちらも信じがたいことを言っている。

 津谷弁護士が正面から2回も刺されているのは、刃先から身体をかわすことをし
ていないということだ。侵入者と向き合っていた津谷弁護士はどうして身体をかわ
さなかったのか。だれかが津谷弁護士が動けないよう身体を拘束していた、そこを
侵入者が刺した、ということであれば、2回も正面から刺されていることが理解
できる。

 が、警察官2人は「わからない」と言うのみ。

 弁護団では、現場の警察官のあまりの緩さは、津谷弁護士の奥さんのした110番
通報を受けた県警の担当者が、大したことはない些細なトラブルのように、警察署
やパトカーなどに連絡したことが、そもそもの原因にちがいないと考えている。

 弁護団は110番通報のときの画面データ(110番通報の内容を画面に書き込ん
で、他の警察官らと情報を共有するもの)を証拠保全手続で手に入れようとした。
これに対して、県警は「システムトラブルにより過去データは消滅した,存在しな
い」「バックアップは取っていなかった」
と、存在を否定した。

 そこで、弁護団は、県警が110番情報管理システムの設定、修理等に関する民間
企業との契約書を情報公開請求で取得した。

 県警本部は、データ消滅に対する特別な対応をしていなかった。これは、データが
消滅していなかったことを示している。
 消滅どころか、「DATテープ装置」が付いていて,DATテープには平成16年
からの全てのデータが保存されていた。

 県警本部は「業者に指摘されるまで、バックアップが取ってあることを知らなかっ
た」「業者に依頼して復元した」
と説明しているが、保守点検契約書にはDATテー
プ装置の記述もあり、知らなかったはずがない。
 県警本部長も県議会で「データは消滅した」と説明していた。県警本部長がわかっ
ていて虚偽の答弁をしたのか、部下に騙されて虚偽の答弁をやらされたのか。いずれ
にしても問題だ。

 このことを、一昨日、秋田市内で記者会見をして説明した。会場にはマスコミ各社
の記者が多数参加した。弁護団の説明はかなり丁寧にわかりやすいものだった。
「これをちゃんと報道してもらえればいい」と弁護団も津谷弁護士の奥さんも期待し
ていたが、私は「あまり期待しない方がいい」と言っておいた。

 そして、昨日の各紙朝刊。
 多くの新聞がこの記者会見について報道していた。
 たとえば、讀賣新聞記事。
 ≪通報の画像データ 複製存在 県警、1月には把握

 県警が110番の通報内容を録音した音声データと画像データ各3年分、計約24万
9000件が消失したとされる問題で、画像データ約12万5000件について、
バックアップデータが存在していたことが17日、わかった。県警は1月までにバック
アップの存在を把握していたが、その後、公表していなかった。

 消失したとされる画像データの中には、弁護士・津谷裕貴さん(享年55歳)の刺殺
事件で、津谷さんの妻が通報した時のデータも含まれていたため、遺族が県などに損害
賠償を求めた訴訟の証拠にしたいと、遺族側の代理人弁護士団が県警に提出を求めて
いた。弁護団が17日、記者会見を開き、バックアップの存在を明らかにした。

 弁護団によると、今年1月20日、津谷さんの妻が110番した事件当日(2010
年11月4日)の受理画面のデータ計111件を業者が通信指令課のシステムに表示
できるようにした。情報公開請求をしたところ、データが消失したとされていた3年を
含む2004年9月15日〜11年3月1日の画像データが、システム内にあるデジタル
オーディオテープ(DAT)にバックアップ・保存されていることが、作業に当たった
業者の報告書から判明した。復元データはすべて正常に表示されたという。

 データ消失問題を巡っては、県警は音声データについてはバックアップのDVDが
あるとしていたが、画像データについては、志村務本部長が昨年11月時点で、県議会
決算特別委員会での質問に「画像データの保存はハードディスクのみで、バックアップ
はしていない」と答弁していた。

 県警は取材に対し、志村本部長の答弁後、県警が業者からバックアップの存在を知ら
されるまで、「DATの存在を知らなかった」と説明。本部長の答弁については「バッ
クアップはないと(本部長に)報告していたので、(本部長も)そういう認識に基づい
て答弁したはずだ」としている。≫

 これに対して、秋田県内で最も読者の多い地元紙・秋田魁新報は、弁護団が記者会見
で説明したことには一言も触れていない。
 県警が業者に依頼して復元した画像データを証拠として提出することになった、と
だけ書いている。これでは、弁護団が追い詰めて出さざるを得なくなったことは、絶対
に読み取れない。
これは意図的な情報操作だ。だれのためかは明らかだ。

 私の予想は、讀賣、朝日、毎日についてはハズレ。秋田魁では大当たりだった。