弁護士は「火中の栗を拾う」べきだ!

 『県民健康管理調査の闇』は、何となく抱いていたイメージを打ち
砕くものとして出色だ。

 何となく抱いていたイメージ。
 それは、福島県は何よりも県民の健康や安全を第一優先して国と対
峙しているというイメージ。それが全くちがった。

 長崎大学教授、広島大学教授は、その場所柄、被爆のおそれのある
人たちに対する配慮は他の大学の教授より遥かに繊細なのだろうとい
うイメージ。それも全く違った。

 これは、決して、福島県長崎大学教授、広島大学教授を蔑んでい
るのではない。ひとりの人間として難しい局面に対峙したとき、その
局面に自分の存在をかけて立ち向かうことが如何に難しいかというこ
とを感じさせる。

 検討委員会のどうしようも無さを読み進みながら、幾度も、どうし
て弁護士(会)が関わっていないのかと考えていた。

 答えは『県民健康管理調査の闇』の152ページに書いてあった。

 弁護士を検討委員に追加する理由について、県の依頼書には「個人
情報保護のため」と記載されており、秘密会の発覚を受けて失われた
県民の信頼を取り戻すため、県民健康管理調査を抜本的に改善する意
思が見られなかったという。
 それにもかかわらず、弁護士会が委員を推薦してしまえば、県によ
る表面的な改善に「お墨付き」を与えることになりかねない。

 この点のためらいは、ほんの一瞬だが、私が情報保全諮問会議のメ
ンバーを引き受けるときにもあった。ほんの一瞬ののちは、内心、引
き受けることを決めた。

 一瞬のためらいは、日弁連の対策本部の事務局長をだれに引き継い
でもらうか、日弁連に反対されたらどうするか、というものだった。

 隙間だらけ出来てしまった法律がこのまま施行したら、報道機関や
一般の人々がトラブルに巻き込まれる危険があるだけでなく、実施機
関の側が様々な運用の局面で困惑するに違いないと実感した。
 問題だらけの法律ではある。そのこと自体を批判することも必要だ
が、問題をより小さくするのも批判的に法律をみている者の役割だろ
うと考えた。

 わたしは、日弁連の推薦ではなく、日弁連が問題視しないという限
度での了解で、諮問委員を引き受けた。
 そして、いま、細かい部分をいろいろ考えさせられ悩まされている
ことで、諮問委員を引き受けて本当によかったと思っている。

 「個人情報保護のため」というのは非常に限定されているようにも
思えるが、県民健康管理調査の実情をみると、「個人情報保護のため」
に如何に実効性を持たせるかということは、瑣末な論点ではなく、非
常に重要な課題だ。
弁護士が力強く関わる意味は大いにある。

 弁護士は職業柄、何をしても、どこからか矢が飛んで来る。飛んで
来る矢を避けるのも、飛んで来る矢が刺さるのも慣れている?!

 福島県庁の体たらくをみていると、福島県弁護士会では、弁護士会
推薦ではなく、一弁護士が個人として参加するという形にして関わる
べきだったのではないだろうか。