企業の善意が犯罪者をつくる

 毎日新聞 9月5日(金)6時30分配信記事
 ≪福岡県の九州自動車道で7月20日に起こったバスジャック事件で、人質強要処罰法違反
などの容疑で送検された青年(27)=鑑定留置中=は、過去にもバスジャックの予告事件な
どを起こし、福祉施設で社会復帰に向けて訓練を受けている最中だった。≫

 これだけ読むと、青年は危険人物みたいな気がするのだが、

 ≪関係者によると、就労支援の訓練用に作業着を新調したばかりの(青年)は事件前日の7
月19日夜、入所する同県福智町グループホームの職員とラーメンを食べながら少し誇らし
げに話した。「これからも頑張ります」≫

 うん。がんばってるじゃないか。そして、

 ≪翌朝「ちょっと出かけてくる」と外出すると、同県直方市を出発した西鉄バスに乗りこんだ。≫

 ふつうっぽい。それで、

 ≪九州道に入ってから運転手にペティナイフを示し「110番しろ。警察を呼べ」と乗客に叫ん
だ。≫

 なんだ、この異常な展開は。青年の過去は、
 
 ≪青年は警察への虚偽通報などの問題行動を起こし、矯正施設への入所を繰り返していた。
2011年にはJR博多駅前のビルでバスジャックの予告文を張り、刃物を所持した銃刀法違反
容疑で逮捕され、実刑判決を受けている。≫

 これも、今回の行為も、底が浅すぎるというか、背景がないというか、社会に対する恨みのよ
うなものが全く感じられない。青年には精神的に問題があるように思える。

 記事は、青年の起こした事件の余波に及ぶ。わたしはこっちが気になった。

 ≪2年前に開所した同ホームが受け入れた出所者のうち、再び逮捕されたのは青年が初め
てだが、事件後、地元企業に就職予定だった他の入所者が「バスジャック犯がいる施設なん
て信用できない」と内定を取り消されたという。≫

 最悪!
 他の入所者は、青年の犯罪に何の責任もない。自分に責任のない事情で採用を取り消され
るなんて、なんということだ。

 この企業は、過去に事件を起こしたことがある人でも採用しようとしているのだから、犯罪
者の社会復帰に協力してくれている、心ある善意の企業なのだ。その企業が、一旦は採用
を決めた他の入所者の内定を取り消した。

 善意の企業が、他の入所者にどうしてこんなひどいことをするのか。
 所詮、善意は上から目線の、気まぐれだからだ。「せっかく雇ってやろうとしたのに、ああい
う問題行動を起こす人がいるような施設の人じゃあなあ」というところだろう。

 善意の企業にこんなことをされると、支援センターは、犯罪を繰り返すおそれがないとはっき
りしている人しか受け入れないとなるだろう。善意の企業の気まぐれのせいで、支援センター
は、企業に先んじて、障害者を選別する。

 支援センターに受け入れを拒否された障害者はどこに行けばいいのか。行き場がない人は
どういう行動を取るだろうか。答えははっきりしている。
 気まぐれの内定取消の横行が障害者の再犯を増加させる。善意の企業が犯罪者をつくっ
ている。

 企業の善意に頼ってはいけないのだ。
 企業には善意も同情も不要だ。どんな過去があろうと、「こいつは使える」と自分で判断し
たら、その判断に自信と責任を持て。そして、安易に変えるな。
ということじゃないだろうか。